(文)

□星合
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夏の大三角は、いつも以上に輝きを増して、その存在を示す。
「あれがそうだな」
見詰める先にそれはあった。
「……綺麗だ」
二つの星は、今日、現れたもう一つの星によって結ばれる。
そんな、古い言い伝え。
「ベガ、アルタイル、デネブ」
一つずつ指を指しながら、蓮二はそれを示す。
「織姫と彦星、それから……」
「鵲だな」
俺の言葉を区切るように、蓮二は口を開く。
「鵲が橋を掛ける事で、織姫と彦星は出会う事が出来る」
「……一年に一度しか逢えぬというのは、悲しい話だな」
自然と繋いでいた手に力が入った。それを、蓮二は強く握り返す。
「好きすぎたんだ。お互いに。……俺は、きっと彦星だな」
「どうしたのだ、急に……?」
「俺はきっと、織姫に見とれ過ぎた彦星だ。一日中お前の事ばかり考えて、何もやる気が起きない」
悲しげに星を見上げながら、蓮二はそう言った。
「けれど、離される事を嫌がって、努力はしているつもりだ」
「……ならば、俺は織姫か……」
蓮二が言うものだから、釣られて口が動く。予想をしていなかったのか、蓮二は酷く驚いた様だった。
「お、お前が彦星ならば、俺は織姫だろ?……腑には落ちぬが」
自分で言った言葉が恥ずかし
くなり、一言付け足す。
「……俺も、離される事が嫌で努力しているつもりだ。悲しい運命など、絶対にごめんだ」
繋いだ手を絡め、深く結ぶ。
「だがな、蓮二。もし。もし、離れた時は、鵲に、橋を掛けて貰おう。どんな雨が降っても渡れるような橋を……」
「そうだな。俺達に、催涙雨は似合わない」


頭上には、星の川が流れる。
出逢った二つの星はきっと、寄り添いながら、愛を確かめあうのだろう。
そして、こう二人で囁くのだ。
「愛している」と。

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