(文)

□親友以上恋人未満
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すっかり日が暮れてしまった帰り道のこと。暑い気温に、微風が涼しく通り過ぎて行く。
「そうだ、弦一郎」
蓮二と歩く帰り道は、いつも静かだ。
「少し、付き合って貰ってもいいか?」
「構わない」
言って、寄り道に付き合う。




「蓮二は本当に本が好きだな」
寄り道の帰り。
何時もより騒がしい道も、蓮二と二人。
「そうだな」
笑いながら、蓮二は厚い本の入った紙袋を持ち直す。
「弦一郎」
名前を呼ばれ、少し体が跳ねる。
「なんだ?まだ寄る所でもあったか?」
「嫌」
間を開けることなく、蓮二が否定する。
「いつも俺の我が儘に付き合って貰っているからな。その礼に、お前の言うことを何でも聞いてやろう」
「………何でも、か?」
肩に掛けた鞄を担ぎ直し、口を開く。
「ならば、一つ……」
「ん?」
立ち止まると、二歩先で蓮二も止まる。
「渡したいものがあるのだ」
別れの駅は、直ぐ目の前。
「目を、閉じてくれるか?」
高鳴る鼓動を抑えながら言った言葉に、蓮二はそっと瞳を閉じる
「こうか?」
「あぁ。そのまま……」
瞬間触れただけのキス。
「……げっ!!」
驚いた蓮二は、口に手を当て赤くなる。
「で、ではな、蓮二!また明日!」
走ってそこを立ち去る。
コンマ一秒のそれに、何時までも胸が煩かった。


これが、俺と蓮二の初めての………。

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