(文)

□飼い猫
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帰り道。ガリガリという音と共に、子猫の声が聞こえてきた。
どこに居るのだろう。探すが、辺りは暗く、分からない。
「……下か?」
健康センターの広い屋根の下。携帯のライトを付け、辺りを照らすと、入り口の片隅に小さなダンボールを見つけた。ガタガタと揺れる、紐で固く閉じられたダンボール。中からは、可哀想な子猫の声。懸命に中からダンボールをを引っ掻きながら、助けを求めていた。
「捨て猫か……。拾ってやりたいが、猫は飼えないんだ」
悲しげに鳴く子猫の声を聞き、思い出した。
「あぁ。そう言えば、家の猫が腹を空かせて待っているんだ。お前には、良い飼い主が見付かるさ」
声に背を向け歩き出す。猫に餌をやらなければ……。




「ただいま」
部屋から鈴の音がした。
「良い子にしていたか?」
ソファーに寝転びながらも、上体を起こして猫は鳴く。横に座ると、頬を太ももに擦り寄せてくる。それが愛らしく、頭を撫でると、猫は再び鳴いた。
「今日もずっと寝ていたのか?」
一度鳴り響く鈴。
「明日は休みだ。たまには散歩に行こう」
猫にお洒落な服を着せて、逃げないように手を繋いで。
首から繋がる長い鎖を右手で持て余しながら、見上げる瞳に唇を落とす。
「楽しみだな。弦一郎?」
猫は悲しそうに、嬉しそうに鳴く。
「あぁ。愛しているぞ、蓮二……」

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