(文)

□Happy Birthday to ……
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大切な人に上げるものは何がいいか。
永遠に形に残るものか。直ぐに無くなってしまうものか。
何なら喜んでくれるだろうか。

部屋に飾った藤の花は、まだ綺麗に咲いていた。それを眺めながら、蓮二を思う。
「彼奴の誕生日は、すぐそこだと言うのに……」
蓮二が欲しいものが分からない。


散々迷った誕生日前日。二十三時五十五分の公園。こっそり抜け出した家。待ち人は、今、目の前に。
「お前から呼び出しが来るとは思ってもみなかった。てっきり寝ているものかと……」
「蓮二も、普段なら寝ている時間か?」
「嫌……」
「ならば、いいのだ」
俯き、拳を握る。
「あの、だな。一番に、おめでとうを言いたくてな……」
六月四日の誕生日に。
「誕生日おめでとう!」
「有難う……」
柳蓮二が生まれた日に。
「れ、蓮二がくれた花はな、今も綺麗に咲いているのだ……」
「そうか」
俺に、出来ることを。
「それで、俺も何かプレゼントをと、色々考えた」
「うん」
「……俺では駄目か?」
思い付かなかったプレゼントは、蓮二の笑い声で赤くなる。
「や、やはり駄目だったか……。ならば、また何か……」
「嫌」
言葉を切り放たれた蓮二の言葉。
「最高のプレゼントだよ」
その言葉に胸が高鳴る。
「有難う。弦一郎」
そっと腰に回された腕は、後ろで優しく絡まる。包まれると、心が落ち着く。動かさずにいられなかった腕は首元に回る。グッと抱き締めると蓮二の匂いがした。
あんなに近くにあったのにそれ以上近付くことが、触れることが出来無かった唇に後悔しながら手を繋いだ帰り道。

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