(文)

□灯籠流し
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待ち合わせをした。白い橋の上に十九時。橋の下にも橋の上にも、たくさんの人が集まっていた。橋の下では、人々が持っていた灯籠に火を付けていく。
「弦一郎」
近付く声に顔を向けた。
「すまない。待たせてしまったか」
「嫌」
今日は、灯篭流しだ。
お盆の時期に灯篭を川などに流し死者の魂を弔う。
「もう直ぐだな。降りよう」
薄明るい空の下灯る蝋燭の光はどこか頼りない。橋の下に降りた頃には、次へ、また次へと灯篭が流されていた。一万五千もの光は、夜が更ける毎に温かく、明るさを増していく。川に揺れる灯りはまるで、幽玄のようだった。
一つ一つ違う模様が描かれ、大きさも、思いもみんな違う灯籠が、川の流れに乗り次々と流れる。それが、とても優雅で。
「綺麗だ」
思わず声が漏れた。
川辺に集まる人達の後ろで、そっと灯りが流れていくのを見守る。右手に触れた、蝋燭の灯りのような温かさ。
「れ、蓮二!……人前でなど………」
「誰も見ていない」
絡まる左手を右手で握り返す。刹那、右に引き寄せられ、左の脇腹に蓮二の手が触れたと気付いたときには唇を奪われていた。軽く触れただけのそれは直ぐに離れる。白くなった頭で蓮二を見ていた。すぐそこに合った顔は離れはせずに近付いてくる。動けずに、固く目を閉じた。全身に力が入る。だが、触れる感触は無く、力を抜き目を開けた。
不意打ち。
奪って、また直ぐに離れる。
空いていた左手で口を抑えた。顔が熱かった。
「れ、蓮二……!」
「弦一郎。お前と来れて良かった」
言われた言葉に胸が苦しい。

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