(文)

□Happy Birthday to ……
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五月二十一日。晴れ。
朝の空気に、綺麗な紫が揺れる。庭にある蝶の花弁。丁度見頃のそれは、優雅で気品がある。その枝を切り落とし、紙に包む。紙を撫でるように揺れる花も、雅に思えた。


大きな門があった。そこに付いたインターフォンを押すと、小さく高い声が響いた。
「はい。どちら様でしょう?」
「お早う御座います。柳です」
「あら、柳君。お早う御座います。ちょっと待ってらしてね」
気品のある喋りに、心が和む。暫く待っていると、門が開いた。
「蓮二」
「お早う。弦一郎」
「あぁ、お早う。どうしたと言うのだ?」
どうやら、忘れているらしい。今日が自分の誕生日であることを。
「そんなことだろうと思ったよ」
可笑しく思え、つい笑みが零れる。
「な、何か約束でもしていたか?すまん。全く覚えが無いのだ。謝ろう」
「嫌、いい」
慌て不為くのも可愛げがあり、更に可笑しくなる。
「約束などしていない。俺が勝手に来たんだ」
言うと、弦一郎は安堵していた。一度小さく息を吐き、目の前にいた俺と目を合わせる。
「ならばどうしてここに?」
「弦一郎。今日は、何日だ?」
「今日か?今日は、五月二十一日だが……」
本当に、この大切な日を忘れるとは。
溜息にも似た笑いを一つ。
「今日は、お前の誕生日だ」
「俺の……?」
少し考え、思い出す。俺がいる意味を理解し、赤面していた。
「それで、わ、わざわざ来て……くれたのか?」
「あぁ」
照れ隠しに、何時もの癖。帽子を下に下げるように伸ばした手は空回り、そのまま前髪をいじり始める。
「誕生日おめでとう。弦一郎」
渡すように前に出す。
「お前が生まれてきてくれたこの日に感謝を込めて」
小さく揺れた紫の花。
「俺からの囁かなプレゼントだ」
藤の花を、お前に。
「……有難う」
渡る花に願いを込めて。
「綺麗だ」
その花が似合うお前に酔いしれる。
「弦一郎。これからも、ずっと……」
決して、離れない。

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