(文)

□口付け
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「口付けてもいいか?」
口付けの前、蓮二は必ず俺にそう聞く。そして、いつも直ぐに答えられない俺を見て、楽しんでいるのだろう。
「く、くく、口付け、か……?」
早くなる心音と、汗ばむ手、上がる息。
「やっぱり、駄目か?」
隠せない緊張に、目が回りそうだ。
「……か、構わない!さぁ、いつでも来い!」
言いながら少し俯く。肩に入った力が抜けないまま、唇を軽く噛み締め、強く目を瞑る。
「ありがとう、弦一郎」
きっと蓮二は、覗き込んで口付けをする。以前のように深い、深い口付けを。そう思っていた。だから、頬に蓮二の手が触れた時、体が石のように固まる。覚悟を決めた刹那に、額に触れた柔らかい何か。
「?」
力が抜けた。少し顔を上げると、それは瞼へと落ちる。
「……」
いけない想像をしてしまったと思い、恥ずかしくなった。
「れ、蓮二……」
目が合って蓮二が笑っていると分かった途端、顔から火が出た。
「口付けても、いいか?」
同じ質問に眉を寄せながら唇を噛み締め、開く。
「構わない……」
目を閉じ、自ら口付けを求める。



絡み合う舐と、かかる吐息。

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