(文)

□※自慰
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夏には怖い話を。等と、誰が言い始めたのか。

全国大会が終わり、夏の思い出を作ろうとレギュラー全員でキャンプへ出掛けた。小さなペンションが幾つか立ち並ぶキャンプ場は夏も終わりに近いからか静まり返っていた。ペンションには二段ベッドが二つ。それだけ。トイレやシャワー、洗面所と言ったものは、共同でペンションから歩いて二分程の所に二箇所あった。夕食は定番のカレー。終われば花火。それも終わればペンションに全員集まり夏の風物詩。
「俺本当に見たんすよ!」
「見間違いだろぃ?」
「案外本当だったりしてな」
話は簡単だった。赤也が俺のドッペルゲンガーを見たと言うのだ。
「ほんとっスよ!俺ちゃんと見たんスから!」
それは部活中の出来事。俺が蓮二と打ち合わせをしているのを見た赤也は、練習相手がいないと思いながらも練習に付いた。すると、フェンス越しに俺を見たという。
「真田君のドッペルゲンガーですか……」
「面白いのぉ」
「それで?それは本当に真田だったのかい?」
皆は鼻で笑っていた。
「そうっスね……。顔。っていうか、こう、目の辺りは黒くて見えなかったんスけど……」
赤也は言いながら自分の目辺りで手をひらひらとさせた。
「けど、あれは間違いなく副部長でした!帽子もかぶってたし、あの仁王立ちの姿なんて、もうまんま!」
自棄に熱くなる赤也に「寝ぼけていたのだろう」と冷静に返すが、内心は不安で仕方が無かった。
「そう言えば、自分のドッペルゲンガーと対面すると死んじゃうらしいね?」
こういう話は。
「たるんどる……」
苦手だ。
「フフ……。真田も御立腹だし、今日はこのくらいにして、もう休もうか」
「ゆ、幸村!」
「さ、解散!」
手を叩いて解散の合図を出す幸村に従うように、蓮二、柳生、丸井、ジャッカルは自分達のペンションへと戻って行った。


明かりの消えた部屋には、月明かりだけが届いていた。それも木々の隙間から零れてくるだけの小さなものだった。その部屋に響く小さな寝息と、大きな寝言。眠れずに見開いた目。何度も繰り返す寝返り。それでも寝付けず、状態を起こす。ベッドから起き上がり、ペンションの扉を開ける。生温い風が頬を撫でる。時刻は丑三つ時。遠くには、鳥の声。目的地までは二分。たかが二百メートル程の距離がとても長く感じた。周囲には木々が有るため死角が多かった。
「あ、あそこでなら……」
尿意は、既に我慢の限界に来ていた。立ち並ぶ木々を目指し歩く。ペンションから十歩も歩かない間に辿り着く。
「あ、赤也があんな話などするからだ。全く……」
下ろしたジャージからそれを取りだし用をたす。溜まっていたものが出て行き、ちょっとした開放感を覚えた。用を済ませ、曝け出していたそれを終おうとした瞬間息が止まる。口を塞がれていると気付くのは、ほんの少しの隙間から漏れ出た空気を吸った後だった。背後からは、独特な和の匂い。
「これは流石にどうかと思うが?弦一郎……」
耳元で囁かれた言葉に寒気立つ。声の方に目を遣ると、蓮二の顔が直ぐそこにあった。嘲笑うかの様な冷たい目に、身体が震えた。
「放胆」
囁いた言葉と共に、耳に微かに触れる柔らかい感触。口元を上げて笑う仕草さえ解るほどの近い距離に首を竦める。
「誰も見てないと思ったのか?」
囁かれる声が嫌で逆に向けた顔。伸びた首筋を蓮二は舌先で撫でるように触れる。
「甘いな」
背中に寒気が走る。喘ぐ。
「赤也の話が怖かったのだろ?」
口を塞ぐ手から息が漏れる。それを握る右手に、手が添えられたのもその時だった。
「ん……んん……」
その手は右手から滑り先端へと触れる。
「ン―――ッ!!」
背中の寒気が止まらない。口を塞ぐ左手は頬や唇を撫でるように動き、口の前で食指を立てる。
「余り喘ぐと人が来るぞ」
木々達が二人を隠す。静かな夜に、声が届くのは。必死に口を噤む。
「良い子だな」
口の前から下げられた左手は胸に落ち、乳頭を掠めながら身体をなぞる様に下げられていく。噤む口から出そうになる言葉を必死に抑える。それを楽しんでいるのか、中途半端に下ろされたジャージを片手で器用に大腿部まで下ろし、なぞりながら手だけを俺の左手へと添えた。両手で触れられたそれは反応し硬くなる。捏ねる様に撫でられる先端に、それを支えていた手が離れる。身体中に無駄な力が入る。支えていた手の代わりに、蓮二の手が代わりに支える。握られたそれは手の中で蠢動する。
「ぅっ、ふぁ……!!」
耐えきれずに零れた息と声に、蓮二の声に鼓膜が揺れる。
「良い声……」
言われて開いた口を再び噤む。空いた両手を口に被せ、声を殺す。
「可愛い、弦一郎……」
蓮二の手は何度も上下にそれを擦る。押さえていても零れ落ちる喘ぎ。背中で蓮二は笑っていた。忙しなく動いていた手は瞬間止まり、それを強く握る。刹那欲望が溢れでる。荒い息使いに、零れ落ちる白濁はまだ止まらない。
「淫縦」
手が放れる。
「でも、お預け」
身体が解放されると同時に力が抜け、地に膝を突く。後ろで蓮二が踵を返す音がした。
「蓮二……」
長い溜息の後、まだ勃ったままのそれに、自ら手を掛けた。

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