(文)

□傷口
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 破れたズボンから膝が見えた。血が滲んだ膝はとても痛々しく感じる。
「どうしたんだ、弦一郎」
部室の扉を開けた弦一郎の姿に絶句しながら問う。
「実は、買出しに行こうとしたら、仁王が自転車に乗っていけというものなので借りたのだが。・・・・・・途中で猫が飛び出してきてな。慌ててハンドルをきったらこの様だよ」
掌からも血が滲む。
「待っていろ。今消毒してやる」
「いや。これくらい舐めておけば治る」
言って弦一郎は傷ついた掌を舐める。
棚に置いてあった救急箱を取り、弦一郎を其の場に座らせた。こういうとき、部室に椅子がないのはどうかと思う。
「ほら。舐めるな弦一郎。菌が入る」
「たいしたことはない。ただ、膝は少し痛むな」
傷ついた膝を立てて座った弦一郎は、その足を抱える。
「見せてみろ」
言って、傷口を舐めた。
「――!!蓮二!!」
小さく悲鳴を上げた弦一郎に構わずに。
「舐めておけば治る。だろ?」
「や、止めろ!蓮二・・・・・・!」
体温が上がっている。血が出てくるのが分かる。口の周りについた血を拭うと、親指が赤く染まる。
「万能薬だ」
言って、深く深く口付けた。

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