ギャグマンガ日和
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「…」
綺麗な月だ。
一句詠みたいと思ったが今の私にそんな気力はなかった。
もうすぐこの美しい月も見られなくなる。
死ぬのは、
怖くはなかった。
おやすみ、また明日
(曽芭/元禄/死)
「芭蕉さん」
「…曽良君。」
「外に出るのは控えてくださいとあれほど言ったでしょう。何故わからないんですか。」
月が見たくてね、と笑う。
「いい句が詠めそうですか」
ううん、と首を横に降る。
「ごめんね」
「……何故謝るんです」
「わかってるくせに」
また眉を下げて笑うと、
曽良君は私を引っ張った。
「中に入りましょう。悪化したらどうするんです。また旅に出るんでしょう?」
「…うん、そうだね。また君と、旅に出たいなあ」
にっこりと笑ってみせた。
せめてもの強がり。
「出たい、ではなく、出るんです。」
そういって曽良君は私を抱き締めた。
「……曽良君、…――大好き。」
「…馬鹿ジジイが」
「私ね、死ぬのは怖くないよ。
でもね、…
君と離れるのが、君とこうして話せなくなるのが、…怖い」
「…あなたは死にません、僕が死なせません、僕はずっとあなたのそばにいます」
曽良君の声がいつもより大きくなる。
私を抱き締める力も強まった。
「ありがとうね、曽良くん」
「馬鹿、ジジイ…」
「中に、入ろうか。
松尾眠くなっちゃった」
ああ、
「寝てください。布団に運んでおきます。」
「曽良くんの…そばがいいなあ」
「…一緒に寝てあげますよ。おやすみなさい、芭蕉さん。また明日。」
もう君の顔が見れなくなる。
ああ、
神様、私から明日を奪わないで。
「おやすみなさい、…―曽良君。
また――――…あした。」
私に、10月13日は来ない。
(僕がゆくまで)
(おやすみなさい)
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曽良君は全部知ってるといい。