中編

□自覚が出てきた五年生
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実習、というものと忍務にも慣れてきた今日この頃。上級生になって二年目。五年生になって変わったこと、それは一番わかる、体型だ。今までは普通だった。普通だったはずなのに今じゃふにゃふにゃしている。女特有の柔らかさ。おかげで金吾が私にぶつかっただけで土下座する始末。上級生になってさらに苦手になったんじゃないかな。
しかし、私達忍を目指す者は異性を苦手と意識している場合ではないのだ。それもこれも色の授業のせいである。くのいちは男に比べればやはり力が劣ってしまう。それを補うために、戦忍を目指す者は色の授業を学ばなくてはいけない。それも実技つきで。
上級生になって驚いた。その実技の相手が忍たまであったから。そりゃあ抵抗がないわけじゃない。見知った顔と組むとなったら気恥ずかしすぎて実技に集中できないんだから。


「………はあ、またあるのか…」


だが相手を決めることはできない。それは全て先生が決めていて、忍たまにしか伝えられないのだ。だからくのたまは相手に言われないと実技がいつなのかわからない。三日以内にあるとかそこら辺は教えてもらえるけど。相手がわからないんじゃ気が休まらないというものだ。
ついこの間の相手は庄左ヱ門だった。今思い出しても恥ずかしい。私があの庄左ヱ門に勝てるわけがないのに、組んだんだから。何が勝敗を決めるかと言うと互いに密書を体のどこかに持っていて実技の最中に自分を失わさずに相手から奪い次の日まで持っていれば勝ちというわかりやすいもの。冷静と謳われる庄左が自制心を失うわけがない。私は簡単に奪われてしまったよ、わかってたけど負けた時の罰則は厳しくてもう二度と受けたくないのだ。

次は勝てるといいね。

なんとも上から目線の庄左が今でも忘れられない。しかしあとがないのも事実。次こそは、相手に勝たなくてはいけない。そう気合いを入れたのが一昨日。つまりは、今夜が最終日で相手がわかるのだ。


「あれ、団蔵に虎若。鍛練してたんですか?」
「おおなまえ!」
「今終わった所だ」


井戸の前を通ると上半身裸になって水を浴びている二人。群青の制服にも水が飛んでおり色が変わっている。本当に彼らは体を動かすことが好きらしい。


「なまえは授業終わったのか?」
「うん。今日は委員会もありませんので」


暇なんですよ、と言いながら実際今日の相手を探していた。それと一カ所にいると落ち着かないのだ。


「今度はなまえも一緒に鍛練するか?」
「ご冗談を。私がついて行ったら、また迷惑をかけてしまいますよ」


五年生になってから、一度団蔵、虎若、金吾の鍛練な付き合ったことがある。どうしても偶数でやりたかったが同級生達みんな用事があり付き合ってくれないと泣きつかれて。まあ鍛練くらいなら、とよく考えもせずに頷いたのが運の尽き。私は虎若との組み手の最中、頭を強く打ちつけて気を失ってしまったのだ。しかも場所は裏裏裏山で、三人はそれはもう驚いていたらしい。乱太郎にも怒られた、しかも他の三人は庄左や兵太夫に怒られていた。正座で。
怒られた三人に悪いことしてしまったなあと思ったけど、おかげで実感した。もう、忍たまとは違うんだと。


「………はあ、あんなに可愛かったのに」


つい口に出てしまう。現在進行形で目に映る二人の筋肉。昔は腹筋割れてるー?なんて馬鹿をやるほどだったのに、今じゃ通常運転だ。そこまで鍛えてどうする、じゃない。程よくで、あまり服の上からではわからない。女装の時に大変だかららしいが、今となっては手遅れだろうと思う。
目の前にいる男の子は友達であり、忍たまだ。友達にも言われてしまった。いつまで男女の友情を貫くの、と。実際色の授業が始まったせいで若干ぎくしゃくしている忍たまが数名いらっしゃるんだがね。だけど私も今では無知とは言い難い知識を大量に頭に叩き込んでいるから友達の言い分もわかる。男女の友情は長続きしない、前例がないからだ。


「何見てんだ?」
「君達の筋肉」
「なまえの破廉恥!」
「……それは無視の方向で」


きゃー、なんて上半身を隠そうとする団蔵から目をそらすも冗談だから!無視傷つく!と騒ぐので笑っていた。外見ばかり大人になっていく、中身は変わっていない。
成長、という言葉はとても便利だ。体が大きくなることも成長という、大人の考えを理解できるようになると成長という、実際どこがといわれてもはっきり答えることができないんだ。


「なまえは筋肉つかないのな」
「少しはありますよ?」
「嘘つけ。そんな細っこくてあるわけないだろ」


よほど暑いのか水をかぶったあともずっと上半身裸で、団蔵はそのまま私の隣に座った。団蔵の言葉にむっとしながらあります!と袖を捲って二の腕を見せてあげた。ほら、力こぶできる。


「どうです!?」
「ぶふっ!」
「ぶはっ!」


なぜだろう、私結構きめたと思ったんだけど。あはは!とこれでもかってくらいお腹を抱えて大爆笑。そこまでおもしろいことなかったと思うんだけども。


「二人のツボがわかりません!」
「だ、だっておま…っ!細いしこぶちっちゃ!!」
「二人と比べたらですよ!くのたまではある方ですから!」


むーっ、と膨れながら自分の二の腕に触る。柔らかい肌に小さな筋肉のこぶ。こんなもの二人に比べたら微々たるもので、こうして笑う材料にしかならない。


「筋肉馬鹿!」
「ひっでえ!将来的にだろ!」
「来年にはもうムキムキですよ!マッチョです!」
「お前の言い方だとなんか嫌だ!!」


ギャーギャー言い合いをしている最中、あ。と虎若が小さく呟いた。何か見つけたのかな、そう思いどうしました?と聞けばちょっと抜ける、と上着を着直して縁側を上がった。


「何かあったんでしょうか」
「………あ、あれだ」


団蔵はあれ、というもの。それは何かと思いきや虎若が向かった方向を指さした。
あなたが壁になって見えないんですが、と文句を言いながらもそちらを見れば虎若が誰かと話している。
そう、ただ話しているだけなんだけど、話している相手というのが問題なんだ。


「あれ、くのたまの…」


そこまで言って理解する。そうか、くのたまのあの子の今回の相手が虎若なんだと。今日告げたということは今夜実技が行われるということだ。


「そっか、虎若もやってるんですね」
「受けてるのは全員一緒だろ。お前前回庄ちゃんだったのに」
「…傷を抉らないでください…」


忘れようと、いや受け入れようとしてるんだから。ははっ、と団蔵は笑うが笑い事ではない。庄左ヱ門との実技は生半可な威力ではないんだから。


「庄左ヱ門が学級委員長の意味があの時改めてわかりましたよ……」
「なまえは特別だろ」
「…なぜ?」
「ずっと一緒にいる仲間だからな」


私の顔をのぞき込むように笑いかけてくる団蔵。いまだ上着を着ていないから逞しすぎる肉体と共に見えて殺傷能力が高くなっている。
ありがとう、ございますと言いながら顔をぐいっとあちら側に押し返すと痛い痛いと何か言っていた。気にしない気にしない。


「ったく、普通の女ならイチコロなのになあ」
「普通じゃなくってすみませんね!」
「悪口じゃねえってば」


普通の女ならって言ってる時点で悪口じゃないですか。
ふんっ、と団蔵から顔をそらす。パタパタと走ってくる音が聞こえて後ろを見ると先ほど虎若と話していたくのたまが小走りでどこかに行ってしまった。
おそらく部屋の片付けだろう。前回の私もそうだった、伊助が自室を使うということで庄左ヱ門に来てもらったんだ。そう、実技の時は同室の二人は同時に実技を行わなければならない。そう決められていた。
……あれ、そう決められているのならば虎若の同室は誰だっけ。突如として襲う妙な高揚感。
虎若の同室は、馬鹿旦那で有名な人。
そうだ、今私の隣にいるじゃないか。


「あの」
「今夜、俺の部屋に来て」


振り返ろう、と思った瞬間に鼓膜を揺らすような低い声。とっくに変声期は過ぎており、聞き慣れていたはずなのに今は変に響くようで体の芯が震えた。
あ、の、と声を出そうにも出ない。団蔵が触れている手が肩から首筋に移動してきて、変な声が出そうになった。


「庄ちゃんほど上手くねえけど、我慢しろよ」


耳に触れる吐息に顔が、体が熱くなるのがわかった。
友達、それは一体どの線までか。まだ私にはわからない。




























(んあー…まじ、どうしよ)
(いいなあ団蔵)
(いいもんか!理性保ちそうにねえよ!)
(ふっ、そんなセリフ言ってみてえ)

(こ、今回こそ勝たなくちゃ…)





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