晴れたす曇りたす嵐

□23日
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摂津君がバイトを始めて3日くらいが経った。シフトを聞いたら様々だが、水曜日は午後正午から7時までだと聞いた。
仕事が終わったのが6時でそれからファミレスに向かった。


「いらっしゃいませー!って、紗英じゃん」
「摂津君慣れてきたね」


すぐ入り口にいたのは摂津君で私を見て笑顔を向けていた。けど知り合いだろうとちゃんと接客する。こちらにどうぞーと席まで案内してくれた。


「俺終わるまでいんの?」
「そのつもり」
「んじゃ待ってて」


何か頼むかと聞かれたがすぐご飯だからいらないと断った。仕事に戻った摂津君を眺めながら渡されたコップの水を飲む。
先ほど私が摂津君としゃべっていたからか女の子がチラチラ私を見てくる。そちらを見ればさっと目線が反らされる。おそらく摂津君狙いの女の子なんだ。


「よっす藤堂ー、ニートやってんのか」
「こんちは店長。ちゃんと仕事してますから」


女の子達の視線を感じながら店長と話すが、この人気づいている。自分が意外にモテていることを。私が睨まれることは当たり前だろう。だが、あえて私と話し女の子の視線を感じて優越感に浸るのだ。悪趣味この上ない。


「なあこの前の色男もここで働かねえか?摂津のおかげで女増えてきたんだよ」
「嫌ですよ。結局女の子と話したいだけでしょーが」


エロ魔神がと口にしていると女性客が入ってきた。無論、見逃す店長ではない。一瞬で移動し入り口で女性客を迎え入れていた。さすがエロ魔神。そのおかげで女の子達の目が直でくる。痛い痛い。
こんな視線、とっくに慣れたつもりだった。会社でも教育係で受け持った子がそんなんだったから。だけど、久しぶりだとやっぱりつらいものがあるんだなあと今さらながら再確認した。


「紗英帰るぞー」


そんな中着替えてやってきた摂津君。女の子達と私の間に入り視界をシャットアウト。つい彼を見上げて固まるも摂津君は後ろの人達を全く見ず私の腕を掴んだ。


「てんちょー、お疲れっしたー」
「おお、また明日な」


女の子達に絡んでる店長に声をかけて摂津君と私はファミレスを出た。
後ろから視線を感じるものの、腕を掴む摂津君が止まらないから私の足も止まらない。


「………摂津くーん」
「あ、速かったか?」
「ううん。ただ、お腹空いたのかなーて思って」


だから早足?と聞けば立ち止まってなんだそれ、と笑った。
その笑顔は拍子抜けしたって感じ。摂津君の気遣いはずば抜けている。周りを見れる力があるから、どんなことにも順応できる力が高いんだ。


「超腹減った!今日の夕飯なに?」
「今日は焼き魚でーす。スーパーで安かった」


腕を離し、先ほどより速度を落として並んで歩く。外は薄暗い。所所に設置されている街灯のおかげで転びはしない。


「紗英って図太い性格してるよなあ」
「突然なに?」
「かいしゃ、だっけか。きっと世界を見てきたからなんだろ」
「……そんなこと、ないよ」


私より摂津君の方が知っている。自然の摂理を。人は生きて、生きて、最後は死んでいく。その中でどんな人生を歩むのか、それは人それぞれで摂津君の人生は私なんかとは比べ物にならない。


「俺なんてまだ学んでる身だよ。頭悪いし、実習しかできねえ」
「…座学だけが全てじゃない。結局は社会に出て自分がどんな立ち位置にいれるかどうかだよ」


なんて、大きなことは言えないが。将来彼らがどうなるかなんて私には想像することすら難しくて、今現在の彼らから目を離さないことの方が重要な気がする。


「たでーまー!」
「ただいまね」
「おっかえりなっさーい!」
「おかえりなさい紗英さん!ご飯食べよう!」
「俺より先に飯か!飯なのか!?」


玄関を開けるとすぐやってきた山村君と福富君。元気だなあ、と思いつつもお腹空いたんだろうと今作るからーと台所へ向かった。
すると居間にいた組が私に気づき顔をこちらに向けた。


「おかえりなさい藤堂さん」
「おっかえりー、ねえねえこれなんて番組?つっまんないのにウケる」
「三ちゃんひでえな」
「今日の飯なにー!!」
「団蔵うっさ」


皆元君の隣に寝転がっていた加藤君に全員で座布団を投げ、沈める。あ、静めるね。
今日は焼き魚、と答えたらよっしゃ!!とすぐ復活したが。


「なんか手伝う?」
「あ、もしかして今週のその他?」
「団蔵あてになんねえし。やることあるならやるよ」


今週のその他、つまりは雑用係の佐武君が台所まで来てくれた。これは助かる。ただあまり壊れやすいモノだと木っ端微塵になってしまうため、大根をおろしてもらうことにした。これなら腕力のある佐武君に持って来いだ。


「紗英さんはぁやぁくう!」
「はいはい。福富君はよだれ垂らさないようにしててねー」


居間から台所をじーっと見てニコニコしている福富君。口の全体からよだれ垂れそうです。


「ほらしんべヱ、拭いて」
「さすが猪名寺君。第2のおかんだね」
「あんまり、嬉しくないです……」


二郭君もおかんだけど猪名寺君も意外におかんな性格してると思うんだよねえ。すると大根をすり終わったと佐武君がちっちゃくなった大根の端を持ってきた。


「力あると違うね。ありがとう」
「あと何すればいい?」
「じゃあ魚焼けただろうからお皿に乗っけてあっちに持ってって」


グリルだけで一気に焼くのは無理な話。12尾の魚は半分ずつ分けられ6尾が焼きあがったところ。
そんなに皿もないため一皿に2尾ずつ。はい、と佐武君に渡し居間に運んでくれた。


「ほら、しんべヱもうできたから」
「おいしそ〜!!」
「さっかなー!さっかなー!」
「団蔵も雑用なんだから手伝えよ!」
「行くから!庄ちゃん叩かないで!」
「きり丸ー!ご飯できたよー!」
「おーう!今行くー」
「テレビ音上げて」
「これ以上上げたらうるさくね?」
「周りうっさくて聞こえないよ」


居間ではテーブルを囲んでみんなかわちゃわちゃしてる。私は残りの魚が焼けるまでに炊けたご飯を茶碗によそる。


「俺何するのー?」
「んじゃご飯持ってって。お汁も持ってくから」


1つのお盆を加藤君に持たせお汁の乗ったお盆を持って行こうとしたらそのお盆も加藤君がひょいっと持ち上げた。
え?と見上げると任せとけーと歯を見せて笑った。


「時々かっこよくなるよね」
「いつもだろ!つーかしんべヱそこ危ねえから!」


両手にご飯とお汁。なんて平衡感覚だ。それを見ていたらチーンと魚が焼けたようだ。


「藤堂さん、魚焼けた?」
「うん。ちょうど今」
「早く食べようよ、無くなるよ藤堂さんのご飯」


黒木君が指差す方ではすごい勢いで食べているしんべヱ君。ちょ、私の茶碗を手にしてる!


「ちょっと!人の茶碗取らないの!おかわりあるから!」


焼き魚を皿に盛り付け黒木君と共に持って居間のテーブルへ、みんなそれぞれ動いてるからぶつかりそう。



「まだ魚ない人ー」
「こっちなーい」
「僕にも〜」
「おっかわりー!!」
「魚のおかわりはありませんっ」


上から失礼、と魚の皿を渡し空いていた皆本君の隣に座った。窓際で一番テレビに近く見えやすい位置には夢前君と佐武君。


「そーいや、皆本君って剣道習ってたの?」
「ん?ああ、親がね」
「へえ、じゃあ跡取りってわけだ」


そんな大層なもんじゃないよ、とご飯を一口。みんな、それぞれ家があるんだな。前に二郭君は染物屋だと言っていた気がする。
親、か……あんまり気にしたことなかったけど、私は何も将来期待されてないんだよねえ。


「会社ってどんなとこ?」
「んー…一言で言えばたくさんの人が働いてるところ。その中で色んな部署が分かれてるの」


私の仕事に興味を持ってくれたのか。どうして?と聞いたら腕に痣ができてると指摘した。


「これはお客様にお茶碗投げられた時に……」
「そんな奴いるのか?」
「たまにしかいないよ、避けられなかった私が悪いんだし」


不破君達に心配させてしまったのも罪悪感しかなかった。ふにゃりと笑うと皆本君は目を丸くしてから私をじっと見てきた。ん?と見返していると、少し口を開きかけて止めた。



「紗英ー!おかわりー!」
「きり丸食べるねえ」
「バイト疲れんだって!楽しいけどな!」
「店長以外はいい人ばっかりでしょ」
「確かに」
「どんな店長?」
「今度ふぁみれすとやらに行こうよ!」
「店長が色男連れてこいってさ」
「あ!じゃあ俺立候補ー!」
「団蔵はアウトだろ」
「だな」
「なんだそれー!!」


摂津君の言葉により私達の会話は中断。というより終わっていた。
はいはい、と私は立ち上がり摂津君から茶碗を受け取り炊飯器の元に。福富君のももらいましたよ。


「けどさ、僕らもやりたいよね」
「え?何を?」


もぐもぐと魚の身をほぐしながら夢前君が呟いた。最後の一口だったのかごっくんと飲み込んでからまた一言。


「だから、アルバイト」


居候なだけで済む僕らじゃないでしょ。こくん、と頷いたのは黒木君だけじゃなくほとんど、とゆうか全員だった。




















(へ?)
(それいい考え!)
(郷に入っては郷に従えって藤堂さんも言ってたしな!)
(ちょ、ちょっと待て!確かに言ったけど!)
(僕らだって15ですから!居候なだけじゃダメですよね!)
(黒木君までぇ!?みんなどんだけ好奇心旺盛なんだ!!)





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