晴れたす曇りたす嵐

□13日
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昨日急遽決めたお花見。場所は知ってる。大きな運動公園は桜の有名な場所で、そこなら広いしみんな開放的になれるんじゃないかと思っている。
天気予報も今日は1日晴れ。まさに花見日和ってやつだ。


「紗英ー、次どこ?」
「そこ右に曲がってねー」


テレビで取り上げられるほどの桜の名所はやっぱり人がたくさん。10時に出てきた私達、もう場所取られているな。


「花見って、こんな大人数でやるもんなのか」
「二郭君の方は違うの?」
「こんなに桜が密集してなかったから…1つの大木に桜が咲いてて、それの下で僕達は騒いでた」
「先生達も怒りに来た割に一緒に飲んでたしなー」
「しかも持参!最初っから飲む気だったろって!」


歩きながらも彼らは元気だ。ただ先頭を走っているのは山村君と福富君、それを追いかけるように猪名寺君が走っているけど、転びそう。荷物持ちで佐竹君と摂津君、それに加藤君が私のすぐ前にいて右に二郭君と笹山君、後ろに黒木君と夢前君がいる。


「皆本君、体大丈夫?」
「ああ…塞がってるし、大丈夫…です」
「金吾さー無理に敬語にしなくていいんだぞ?紗英だし」
「加藤君、君は少し敬語を覚えた方がいいんじゃない?けど、敬語じゃなくってもいいよ。こう身長差があると、年下に思えんし…」


私がそう告げると周りの子がなら砕けた言い方にする、と返事を返した。黒木君まで…


「あ、山村くーん。そこ登ってねー」
「はーい!」


びゅんっと傾斜を登っていく。手にはナメクジさんの壺を持ちながら。あれって意外に重いんだよね。


「あ、ちょっとあそこ寄りたい」


突然足を止めたのは夢前君。あそこって、と思うとそこには24時間営業してますが煽り文のコンビニ。何か買うのかと思ったが、何か必要なんだろう。


「いいけど、みんなは?」
「俺ら先行ってる。目印はわかんのか?」


目印、と言われればわかりやすいものが1つ。山村君はおそらく見つけたはず。


「今回のメインが1つ。そこにいてね」


は?という顔をする摂津君。だけど絶対わかるもん。他にもコンビニ行く?と聞けば黒木君も行くとのこと。ここで一旦わかれて私達はコンビニに向かった。


「黒木君も何か欲しいの?」
「興味本位。もう少し外のこと知りたくて」


こんな時まで真面目だなあ。コンビニに入ると自動ドアが開きあのトゥトゥンみたいな独特の音が鳴った。
ここもからくり…と夢前君が興味を持つ前に奥に押し込んだ。

「それで、買うものは?」
「えっと…あ、あれ」


一体何を見つけたというのか。そちらを見てみるとあるのは未成年はご購入できませんの棚。ちょ、ちょっと待て。なんで君達飲もうとしてるの?


「団蔵達が飲もうぜって。もちろん僕達もだけど」
「いやいや、何当たり前みたいに言ってるの!?」
「実は固い思考の持ち主?」
「固いとかそーゆう意味じゃないし!」


黒木君も何か言って……そう思い振り返るが、彼はチューハイの缶を手に取っている。おいおい、何してるんだよ君は。


「え?花見なら飲むよね?」


ブレーンがそれを言っちゃあお終いです。カゴに入れる姿はもちろん様になっている。夢前君も紗英さんも飲もうねと肩を叩き首を横に振る。飲めないよ、すぐ潰れちゃう。


「え?強そうな顔してるじゃん」
「どんな顔だよ。そこまで強くないよ」
「藤堂さん、これってどんな味するの?」
「黒木君はお酒に夢中ね…それはグレープフルーツで柑橘系なんだけど、蜜柑とかより酸っぱさが強いかな」


へえ、と興味津々。まさか黒木君が1番ノリノリだと思わなかった。私の微々たるお酒の知識じゃ2人を満足させることはできないだろう。けど2人はそれでも私の説明を楽しく聞いてくれてたからよかった。


「ものは試し。いろんな種類買ってこー」
「意外にチャレンジャーだな。まあいいけど」


残しても自分達で飲みなよと釘を差しそれらをレジに。店員さんがいらっしゃいませ、と可愛らしい笑顔を私の後ろに向ける。2人とも、気づいてあげて。


「年齢を聞いてもよろしいですか?」
「二十歳です。後ろは……」


私が答えようとする前に夢前君が前屈みに私と店員さんの間に入った。


「僕達、いくつに見える?」
「は、二十歳くらい、かな…?」
「正解。さすが、お姉さん」


なんて色気たっぷり。店員さんはろくに確認もせずお酒を袋に詰めて売ってくれた。それを受け取る黒木君、ありがとうございますと清楚な笑顔を忘れずに。君達、女受けをご存知で?


「たくさん買えたねー」
「いい人だったな」
「……君達しか見えてなかったよ」


はあ、とため息をつきながらも先に行ったであろうみんなの元に向かう。私が持っていた荷物もさり気なく2人が持ってくれて私は道案内のため2人の間にいた。デコボコだよね。


「やっぱり男の人って髪短いんだねえ」


しみじみと周りを見て呟いた。確かに現代では短い髪の人が主流だろう。だけど、それは周りの流行の話。誰も長い髪が悪いとは言っていない。


「あれえ?お嬢ちゃんかわいいねえ」


ふらふらと出来上がっているおじさん。後ろから肩を引っ張られ驚いて振り返った。


「なんだなんだ!男を2人も連れてけしからん!!」
「ちょっと部長!一般の人になに絡んでんですか!」


部下らしい人がすみません!と謝るも部長は酒が入っており言うことが聞こえてないようだ。


「今時の子はなんでこう男をはべらしたくなるんだ!昔はなあ!もっと純情に付き合いをしてえ」
「ああもう!水飲んでくださいよ!」
「行こう、藤堂さん」
「酒入ってるみたいだし」


私の腕を引いて歩き出す黒木君と夢前君。酔っ払いは放っておけという意味だろう。確かに、私もそのつもりだった。だった…んだけど。
次の言葉に、血管が切れた。



「なんだあ!周りの奴らも!!男のくせに髪なんぞ伸ばして!恥ずかしくないのか!!」


その瞬間。私は部下の人が持っていた水のコップを奪い取り、思いっきりぶちまけた。その場だけがしん、となりようやく部長の人はしゃべるのを止めた。


「ちょ…藤堂さん何して」
「僕らのことはいいから。早く戻っておいでよ」


後ろの2人は気にしてないというのがわかる。だけど、2人が気にしてなくても、この言葉はみんなを否定する言葉に当たる。それが何より腹立たしい。


「おっさんが何言っても許されると思うな!彼らがどんな人で、どんな人生送ってきたかもわかんないくせに偉っそうに…男のくせに?恥ずかしくないのか?あんたの方が男のくせにグチグチ僻んで恥ずかしいんだよ!!酒飲んで調子乗ってんな!!」


ふんっ!と最後に思い切り睨みつけ、空になったコップを部下の人に返した。酒が入ってるなら覚えてはいないだろうけど、私は呆然としている2人の間を通り腕を掴んで歩く。
少し遅れて歩く2人、きっと私を目を丸くして見てるんだ。
やってしまったと今さらながら血の気が引いた。どうしよう、もしかしたらうちの会社の知り合いだったら。でも、あんな人今まで見たことなかったし、でもでも、まだ3年目の私は会ったことなかっただけかもしれないし、部下の人に顔覚えられた?いや、それは確かだろうけど。
どうしよう、これから何かあったら……



「……ふはっ!も、無理…っ」
「庄ちゃんも…?僕も…あはは!!」



突如聞こえた笑い声。ぐるんと振り返るとあはは、ははっ!!と声を出して笑う2人がいた。え?なんで笑ってんの?
私が現状を飲み込めていないと黒木君がごめ…と目尻に浮かぶ涙を拭いながら私を見た。笑いながら泣きながらの人に謝られても……


「さっきの藤堂さん、かっこよかったよ」
「そうそう!すっごく!」


黒木君の言葉に同調するよう頷く夢前君だけどまた思い出したのかまたお腹を抱えて笑い出した。そこまで笑われると、恥ずかしいんですけど……
ぐるぐる巡っていた思考なんて馬鹿馬鹿しくなった。当の本人である彼らがこうして笑ってくれてるんだから、私が悩んでも仕方ないこと。

はあ、とため息をついて歩き出そうとしたら待ってよと2人が両側に並んだ。なに?と問いかけると二人そろって口を開いた。



「「ありがとう」」


僕達のために怒ってくれて。

その感謝に、私は胸がいっぱいになった。





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