晴れたす曇りたす嵐

□12日
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ようやく土曜日になったけど、3日休んだ分少し仕事が残ってしまい、午前中だけ出勤することになった。
けどやることはまだある。彼らと出会って困ったこと。炊飯器が欲しい。それに食料も。食べ盛りというのは実在するようで、特に福富君の食欲には目を見張るものがあった。一瞬で食べる人を初めて見ました。
ともかく、彼専用じゃないけどもう1つ炊飯器があればいい。彼らの世界だとご飯が主流みたいだからあんまりパン類を食べさせてはまずいのか。まだわからないことだらけだ。


「とゆーことで、午後からお買い物に行きたいと思います」
「はい!俺行きたい!」
「残念ながら、今回は挙手制じゃありません。指名制なんで佐武君にお願いします」


ああああ…とうなだれる加藤君。俺?と佐武君が自分を指さすので君ですと返した。


「なんで虎若?」
「荷物持ちを頼みたいの。炊飯器重いし」
「じゃあもう少しついてってもよくね?」
「えー…だって加藤君だといつの間にか迷子になってそうだしからくりコンビだと商品解体してそうだし、猪名寺君転ぶし」
「最後おかしくないですか?」
「ともかく!午後だけなんだから時間はあんまりないの。普通についてくる人ならいいよ」


普通、その言葉がどれだけ彼らに効いたことか。ごらんの通りうーん、と悩み始めた。それでいいのか青少年。しかし、はいと手を挙げたのを見てみんなが振り返った。


「僕行きた〜い」
「山村君か…うん、いいよ」
「なんだ喜三太かよ…」
「もうふて寝しよ、紗英のケチ」
「悪夢にうなされてろ」


座布団を丸めて横になる加藤君に一言投げ捨てそれじゃ着替えてくるからと2人を待たせた。お昼ご飯はもう済ませたし、黒木君がいるなら安心だ。


「あ、2人は着替える?」
「伊助に組み合わせてもらうよ」
「おかあさ〜ん」
「お母さんじゃねえし!」


いやいや、十分お母さんみたいですよ。文句言いながらも二郭君はこの前買った服のコーディネートを考え始めた。さすがお母さん、頼りになる。


「兵太夫、テレビつけて」
「はいよ」
「ばか、今から昼ドラだろ」


君達は順応が速すぎる。休日のお父さんになっちゃってるんだよその若さで。


「紗英ちゃーん?僕ら準備できたよー」
「あ、今行くー」


やっぱり動きやすいの重視で。玄関に先に行ってた2人に続いて靴を履いた。靴はあったのだろうけどわかってきたようだ。


「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
「気をつけて行ってくるんだよー」
「上見過ぎて転ぶなよ!」
「わかった、わかった」
「行ってきま〜す」


中から聞こえる声に苦笑いを返しながら外に出る。確かに、みんな家にいるからストレス溜まっちゃうだろうなあ。外に出る機会を作れた方がいいよな、うん。


「どうかした?藤堂さん」
「ううん、2人は買い物初めてだよね。今日は電気屋行くから」
「初めてのお買い物〜」
「喜三太、転ぶなよ」


ふらふら、山村君は縁石の上に乗ったりとやることなすこと可愛い。つい笑っていると隣で佐武君がはあ、とため息をついた。


「佐武君お父さんみたい」
「この年でやだよ…伊助は別だけど」
「根っからって感じがするしね。あ、その横断歩道渡るから止まってー」


車というものを見慣れてない2人。立ち止まってくれて助かる。すごい目が丸くなってる。


「速いな…どれくらい速いかわかる?」
「えっと、大体1時間で100キロくらい…ああ…あの山まで行ける」


キロとか言っても単位が違うか。へえ、と佐武君はまた車に目を移す。


「すっごーい!はやっ!」
「はいはい、山村君。落ち着いてね」


道路にはみ出そうな勢いだから腕を掴み歩道の中に入れた。えへへ〜と頬を緩めた。15歳に見えん。


「でんきやってどこ?」
「この通り真っ直ぐ行ったところにー…あ、あそこ」
「あそこかー」
「ちょ、山村君速いな!」


いつの間にか腕の中から抜け出しお店に走る。ちょっと、と止めるも話聞かないし。


「炊飯器だっけ?買うの」
「そう。ご飯を電気で炊く現代のからくりだよ」


先に電気屋に入った山村君を探そうと入り口辺りでキョロキョロする。休みだからか結構人がいて、それでも山村君を見つけるのは簡単だった。


「うわあ、これでじめっとした空気になるんだね!」
「じ、じめっと……?これは加湿器と言いまして、乾燥した空気をですね」


店員さんを困らせてます。加湿器にあそこまで食いつく若者はいないだろう。しかもじめっと、じめっとってなんだ。


「喜三太に話しかけてんの誰?」
「ああ、あれはこのお店の店員さん。電気についてちょっと詳しい人。あれも仕事です」


へえ、と佐武君は納得してから山村君の元に。店員さん、佐武君に目移りしてる。女の人でも心奪われちゃうんですね。相手中3になりますが。
店員さんに頭を軽く下げ山村君の首根っこを掴んで戻ってきた。店員さん残念そうな顔してるよ。


「たく、何してんだよお前は」
「ナメクジさん達にいいと思ったんだよ〜」
「加湿器はこの時期にはちょっと……とりあえず今回パスで」


え〜、と言われてもダメなものはダメです。行くよと2人に声をかけて店の奥へ。山村君、我慢するんじゃなかったのか。

案外炊飯器はすぐ見つかった。大きな炊飯器で育ち盛りには足りないだろうけど、前に比べたらマシになるはずだ。


「これにするの?」
「うん…やっぱり重いや」
「力ないのな。こんなん軽い方だよ」


よっと私が両手で持っていた炊飯器をなんと、佐武君は片手で持ち上げた。なんて力持ち。ほえーと変な声を出してしまいんんっ、と声を整える。女の子なんだからそんな声出しちゃいけません。


「じゃ、それ買って帰ろっか」
「了解!」
「どこに持ってけばいい?」
「えっと…ああ、レジあそこだ」


無事炊飯器を買えたのはよかった。安かったし。あと欲しいのは食料だな。せっかく炊飯器買ったんだからさっそく試したい。日本人ならやっぱり白いご飯だからね。
箱に入った炊飯器は軽々片手で持ってくれる佐武君に任せ、私は近くのスーパーのチラシを眺める。


「うーん…今日は何食べようか」
「昨日魚だったな」
「毎日じゃ飽きるし、今日はお肉にしようか。豚肉安いし」
「賛成!もうお腹空いてきちゃったよ〜」


お腹が空いたという仕草でお腹を押さえる。確かに小腹が空いてきた。


「じゃあちゃっちゃと行こうね。佐武君余裕?」
「余裕だよ」
「じゃああっちの道通ろうか」


指差した方は大きな川にかかる橋が見える河原。ウォーキングの人や犬の散歩の人、子ども達が駆け回っている地域の場所。


「川が近くにあるんだ」
「すぐ下。その斜面降りたらすぐだよ」


ほら、と草の斜面が広がり平らになるとそこはちょうどグラウンドらしくならされた土でその先に幅の広い浅い川が流れていた。


「あ、あれ!」
「え?ちょ、山村君!?」


川の説明をしていたはずが山村君斜面を駆け降りる。こーゆう時に限って動きが速くてびっくりするわ。その先を見ていると山村君はこれー!と嬉しそうに叫んだ。


「あれって、桜の木、だよな」
「そうだと思うんだけど…それがどうかしたー!?」
「桜だよ!桜!!」


桜!桜!と連呼しがら木に近づいていく。
なんだか、いつもより嬉しそうだ。


「桜は、どこでも春の風物詩か。みんなもお花見とかしたの?」
「毎年やってた。俺達って元気が取り柄だから、授業そっちのけで桜が満開になったときには決まって花見してたんだ」


そう話す佐武君も嬉しそうで、見てるこっちが優しい気持ちになれる。
桜か…テレビで明日から桜が咲き乱れるって言ってたな。


「よし!それならみんなでお花見しよう!」


私の声に離れていた山村君は走って戻ってきた。ホントに!?とその顔はハツラツとしていた。


「本気?あの面子を?」
「本気!一度決めたら実行します!」
「紗英ちゃんかっこいい〜」


驚く佐武君。それに、と私が続けると2人は私の言葉に耳を傾けてくれた。


「みんながやっていたことなら、きっと不安が和らぐと思うの。家の中だけじゃ、外の様子もわかんないし…精神的に参っちゃったらそれだけで生きる希望をなくしちゃう。君達には、生きててほしいんだ」


これは彼らに対しての最大の願い。生きてほしい。元の時代に戻るまで、何事もなく、は無理かもしれないけど、加藤君も外に出たがってたし皆元君も怪我が大分治ってきた。そろそろ、みんな揃って外に出ても大丈夫だと思う。
お花見の意図を伝えると佐武君と山村君は顔を見合わせて笑った。


「ありがとう藤堂さん。俺達のことそこまで考えてくれて」
「そ、んなこと…」
「僕泣きそうだよ〜!」
「うわっ!ちょ、山村君!」


ぎゅーっと抱きついてきた山村君。性格は子どもだけど、身長は高い。私は抱きすくめられ、にゃはーと笑う彼の声を耳元で聞いた。


「んじゃ、たくさん食うもん買わないとな」
「そうだね!たくさん買って、たくさん作るから!」


ほら行くよ、と山村君を離し歩き出す。山村君に手を取られそちらを見るとふにゃりと笑う彼がいて。ぽん、と頭に手が乗ったと思ったら佐武君が優しく私の頭を撫でてくれた。

春先の風が桜の花びらと共に春真っ盛りを知らせに来た。


















(お花見やるぞおお!!)
(((いえええ!!)))
(どんなテンション。あ、この中で料理できる子いる?さすがにこの人数分のは人手が足りない)
(補助くらいなら誰でも。言うなれば伊助かな)
(さすがお母さん)
(藤堂さんまで!)




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