晴れたす曇りたす嵐

□10日
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まだみんなが寝る場所が決まらない。とゆうより、決める前にみんなが居間で雑魚寝してしまうから仕方ない。
現に夜中の2時。10人は居間で入り乱れるよう寝ている。畳でよかったね。


「うーん…ごはんん…」
「むにゃあ…ぜにぃ」
「う、うう…おも、い…」


福富君のお腹に頭を乗せている摂津君。猪名寺君のお腹の上に足を乗せている摂津君。なんて寝相だ。そして不運猪名寺君、頭に加藤君の足が乗っている。唸りが大変ツラそうです。
春先の気温はまだ肌寒い。彼らが若いからって腹出して寝るのは感心しないぞ。
みんなに毛布をかけてから私も部屋に戻ろうかと思ったが、かたっと居間の隣の部屋から音が聞こえた。


「……なんだろ」


おや、と思いながらも寝ている佐武君達を避けながら隣の部屋に向かう。怪我の手当てをして2日が経った。私がいない間包帯の交換などを行ってくれたのは猪名寺君で、私はまだ皆本君と会ってはいない。前に1度目が覚めたのも私は自分についた血にひっくり返って寝ていたし。
正直、どんな人なのか興味があったのだ。
残りの10人がここまで個性的なら皆本君もいい性格してるんじゃないかと思う。


「皆本君……?」


静かに襖を開けると布団で寝ている人物が動いている。もぞもぞと、もしかしたら傷が本当に痛いのかもしれない。私は重い足を動かして皆本君の近くに寄った。
私にあったのは押し付けがましい心配。だけど、彼にこみあげるものは私とはかけ離れたもの。私は、まだ誰にも抱いたことがない。
皆本君に伸ばした手の先に見えたのは淀んだ色の瞳。枕元に置かれていた彼の持ち物が瞬時に抜かれ、私は目を瞑ることさえ叶わなかった。



「落ち着けよ金吾、病み上がりでそう気を張るな」



キイインと部屋の中に響く金属音。尻餅つく私の前にはさっき寝ていた加藤君がいて、金属音の発生源の片方を持っている。また皆本君も長い刀を鞘から出しており、それらがぶつかりあったことで響いた音が発生したと思われる。


「………だん、ぞ…」
「意識ははっきりしてるみてえだな。よかった……」


我に返った皆本君。それを認識してから加藤君は手にしていたものをシュッと隠した。なんて早技、それをポカンと見ているしかなかった私に加藤君が手を伸ばした。


「大丈夫か紗英?」
「…頭が、大丈夫じゃない」
「なら大丈夫だ。金吾、コイツが藤堂紗英」


なんてスルー!私をなんとも思ってないってわかる表現だ!
しかし、今はそれどころじゃない。皆本君は私を見て目を丸くする。


「……俺、今……」


手にしている刀に視線を落とす。加藤君はふいー、と息を吐いてただ見つめるだけ。私は加藤君の後ろから彼の方に歩いた。
私が近づいたのにぴくりと肩がはねた。だけど、私はお構いなしに彼の刀を持つ手に触れた。ぱっと上げられた表情。私はホッとした。


「……よかった、もう大丈夫だね」


あんなに大きい怪我を見たのは初めてで。もしかしたら、なんて考えが頭をよぎるのは何度もあった。けど、目を覚ました皆元君に会ったみんながいたから私は彼を信じることができた。


「痛いとこまだある?」
「………」


驚いた表情を浮かべる皆本君。だけど首を小さく横に振った。つまりは大丈夫ということだ。それにまた安堵の息を漏らすと後ろにいた加藤君がやっぱりおもしれえやと笑った。


「……あなたが、俺を助けてくれたと聞きました」
「うん。だけどお礼はいらないよ。もう十分みんなからもらった。あなたは早く体力を回復して、それだけでいいから」


小刻みに震える私より大きな手を両手で包んだ。もしかしたら、彼の怪我には何かしら理由がある。それはここにいる全員が関係しているのかまだ私にはわからないが、私が自ら首を突っ込んで聞くことではない。


「私は藤堂紗英。君の名前はみんなから聞いたけど、直接聞いてもいいかな?」


手を掴んだまま彼を見つめると顔を上げ私を真っ直ぐ見てきた。その端正な顔立ちに驚きを隠せないものの、私は目をそらすことができなかった。


「…皆本、金吾…です」
「うん。よろしくね皆元君」


ようやく、家にやってきた全員と顔を合わせることができた。
くるりと後ろを向くと半袖の袖を捲って腕組みしている加藤君。私達を見てにやりと笑う。


「珍しいな、金吾が女と接してるの見るなんて」
「へ?そうなの?」
「そ、んなこと…」
「顔赤いぞー」
「…うっせえよ」


本当に女慣れしてないようだ。ごめんね、と手を離すといえ…と赤くなった顔を背けた。加藤君達は皆元君の爪の垢を煎じて飲むことをオススメするね。


「てか、何で加藤君起きてるの?さっき爆睡してたじゃん」
「ふっ、常に気を張り巡らせておくのが俺達にんどっ!」
「おっと手が滑った」


後ろから現れたのは夢前君。
そこらへんに落ちてたスリッパで加藤君の頭に振り落とした。すっごいいい音がしたよ。


「にんど…?」
「気にしないでいいよ紗英ちゃん。てゆーか、団蔵うるさい安眠妨害」
「う、おお、お…俺は頭が割れそうだぞ」


頭を押さえて痛みに悶える。大変、端正な顔が原型を留められなくなってる。それに吹き出すとおもしろい顔でしょ?と夢前君の言葉にさらに笑ってしまった。


「おま、笑いすぎだろ!」
「だ、だって…!加藤君顔が、崩れすぎでしょ!」
「団蔵は元からこんなんだよ」
「三ちゃんちょっと黙ってよーか!!」
「お前ら何事〜?」


午前3時、私達の笑い声により居間で寝ていた人達も起きてしまったようだ。


「ごめん黒木君。うるさくしちゃったね」
「いえ…どうせ団蔵がうるさいんですし」
「どうせってなんだよ!」
「あれ?金吾起きたの?」
「金吾だあああ!!」
「喜三太乗んなあああ!」


寝ぼけ眼で起きた山村君はなんと皆本君の上にダイブ。本人的には抱きついたんだろうけど、残念ながら皆本君の傷直撃。


「ちょ、山村君ダメだよ!」
「まだ金吾は病み上がりなんだからな!?」
「よかったよ金吾お!よかったよおお!!」


全く聞いてないなこりゃ。皆本君いてえよ!と叫んでるのに聞き入れてもらってない。
とゆうか、山村君は皆本君に会ってなかったのかな。それを猪名寺君に尋ねるとこの2日で起きたのに会ったのは猪名寺君と黒木君、加藤君だけらしい。仲間の目覚めに山村君は感動の涙を流していたというわけか。
ようやく離れて山村君はぐしぐしと目元をこする。


「よかった金吾!紗英ちゃんのおかげだね!」
「…ああ」


顔を見合わせて皆本君は恥ずかしそうに、だけど仲間の笑顔を前に微笑んだ。いいなあ、友達って。
ついそんなことを思ってしまった。自慢じゃないが、私は親友と呼べるほど心を許した人はいない。広く浅く、こんな性格だからこんな中途半端なことしかできなかった結果だ。だけど後悔してるわけではなく、今の生活に十分満足している…と思っていた。
それでも、目の当たりにするとなんだか胸の奥がずきんとしてしまう。まだ子供だからなのかな。


「藤堂さん?どうかしました?」
「あ、うん……何でもない」


へらりと笑い返すと猪名寺君は何も言わず。私の顔をじっと見ていてつい、焦った。


「あああ!!喜三太壺!!」


しかしその空気を破るかの如く大声にみんなの神経持ってかれた。そちらを見ると皆本君にダイブするためな離してしまった壺からナメクジ達が脱走してしまったようだ。大変、ここ畳だから。


「捕まえろ捕まえろ!」
「何やってんだよ喜三太!」
「はにゃ〜!ごめんなさーい!」


謝りながらも優しくナメクジ達を拾い上げる山村君。他のみんなも触り方は熟知しているようだ。


「あ、足元いるから」
「はいよ」


すっとナメクジを取り壺の中へ。その際、脱走してるのなんか比にならないくらい大量のナメクジを見たのは忘れようと思う。




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