晴れたす曇りたす嵐

□8日
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それから目が覚めたのは夜中の1時で、私は布団の上に寝かされていた。しょんぼりする目を擦りながら辺りを見渡すと誰も見あたらなくて、彼らのことが夢だったんじゃないかと思った。
だけど、着ているのはあの例の血だらけの服。その上にバスタオルを羽織っている状況だ。あれは夢じゃなかったと物語っている。

夢じゃない。それなら彼は今大丈夫なのか。一気に覚める頭、もぞもぞと起き上がって居間に向かった。

ペタペタと歩いていく廊下。私が寝ていた部屋は居間から1番離れた場所だったらしい。十分私の言葉がわかっていないようだ。

すっ、と襖を開けて中を見る。居間には布団が一式、寝ているのは金吾だろう。


「他のみんな、どこ行ったんだ…」


私の言葉に怯えたならそれはそれでいいけど、さっきの剣幕からして仲間を置いてどこかに行く玉ではない。

どこかにいるかと自己完結し、私は彼に近づいた。そっと近くに座り、口元に手をかざす。息はしてる、脈も通常、顔色もいい。とりあえず、大丈夫なのかな……


「さっき1回目覚ましたんだぜ?」
「そっか、生きてて、よかった……」


安堵の息を漏らすが、一瞬止まり横を見た。腕捲りをした彼がしゃがんで私と目線を合わせている。え?いつの間にいたの?
目を点にしているであろう私を余所に彼はコイツなら大丈夫なんじゃねえの?と後ろに向けて声をかけた。


「僕もそー思うな」
「さ、三次郎まで…」
「兵太夫はいつまでも疑心暗鬼なんだよ」
「まあまあ、それを責めちゃダメでしょ」
「あなたはよく眠れました?」


センターに分かれている男の人が近づいてきて私に問いかけた。突然の登場に頭がついていかない私はは、いと半端な返事をしてバスタオルを握りしめるのだった。



――――――



「あなたが寝ている間に家の中を調べさせてもらいました」
「お、おお…仕事が速いんですね」


居間ではまだ金吾が寝ているため隣の部屋に全員移動。襖を閉めてあるがその前を彼らが陣取り私はその前に座っている。


「特に怪しいものはない…と言いたいところだが」
「僕達にとっては訳の分からないものばかりだったんだよねー」
「………すごく聞きたいんだけど、君達はこの部屋にあるものでわからないものはある?」


例えばこれ、とテレビを指さすと全員が揃って首を横に振った。つまり知らないという意味だ。それは今のご時世じゃありえない無知。
つまり繋がるのは、彼らがこの時代じゃない人達だと言うことである。

けど、私は少し納得している。彼ら…とゆうよりはゴミ捨て場で彼を見つけた時から、少なからず違和感を感じていた。


「……君達の口から聞きたい。あなた達は、どんな世界から来たの?」


私の問いかけに若干動揺が見えたが私は真っ直ぐ彼らを見つめた。突然起きた出来事についていかない部分もあるだろうけど、私は彼らを受け止める自信がある。


「………詳しく、言えないのは承知していただきたい。僕達はこんな箱も、先ほどのように発達した医療も知らない。外は森ばかり、人は野畑を耕し、纏う衣は絹や綿……そんな、西洋的なものではありません」


庄左ヱ門が軽い説明をくれた。テレビも消毒液も知らない。そして外は森や田んぼとくれば江戸よりももっと前だろうか。
うーん、と腕を組み考える。これが巷で噂のトリップというもの…あ、現代に来てるから逆トリップとか言うか。いやいや、今それはいいんだよ。


「まあ、要するに俺達こっちじゃ何にも知らねえんだよな!」
「…団蔵、なんでお前はそんなお気楽なんだ…」
「お気楽なもんか。これでも驚いてる方だよ」


腕捲りしている彼は団蔵というらしい。そして彼は胡座をかいて壁に背をもたれた。


「だけど、怪我を負った金吾が行方不明で行く宛もなかった俺達に降って湧いたのがコイツだ。コイツは金吾を連れてきたし、俺達に居場所までくれるときた。それに甘える以外方法はないんじゃねえのかと思ってさ」
「そんな、確かにそうだけど……」
「庄左ヱ門はどう思う?」
「僕も団蔵の意見に賛成さ。今の僕らは何もできないただの15歳だからね」


勝手に話をしている中、今あからさまにおかしな単語が聞こえてきた。いやいや、ちょっと待てよ。つい私は口を挟んだ。


「ごめん、割って入ってごめん。もう1回会話繰り返してもらっていいかな?」
「え?俺もう忘れたんだけど」
「君じゃなくって、そのあとの君」


はい、と開始を送ると戸惑ったように言葉を繰り返した。



「えっと、僕も団蔵の意見に賛成さ?」
「もうちょい後」
「今の僕らは何もできない」
「さらに一声!」
「…ただの、15歳だからね?」
「……15?」


全員を見渡した。とてもじゃないが、15には見えない。私と同い年かちょっと下の高校生くらいに見えた。


「それじゃああなたは何歳なんですか〜?」


壺を大事そうに抱きしめる彼に聞かれ20だけど、と言えばはああああ!?と逆に驚かれた。いやいや、絶対君達の方が詐欺ってるから。


「あ、あんた20!?どう見ても10代前半だろ!!」
「それは言い過ぎでしょ!!」
「いやいや、ホントに。それで成人って、世の中詐欺だよ」
「君達にも当てはまるからねそれ!」


夜中1時過ぎになんて近所迷惑なことしてるんだ私は。とりあえず落ち着け、と咳を1つして深呼吸。いかんいかん、ペースを乱してはアウト。年齢がはっきりした今上下関係ははっきりしたんだから。


「じゃあ、聞く。君達、私の家に住まない?」
「……それさ、あんたに利益全くないよ」


私の質問に最初に答えたのは前髪パッツンの男の子。年齢がわかった今、男性とは呼ばない。


「りえき?どうしてそんなものを考える必要があるの?」
「人間の特徴、本質とも言うかな。人間は自分に利益をもたらすこと以外はしない。そーゆうもんなんだ」
「それはあなたの勝手な理想像。人間が全てそれに当てはまるとは考えない方がいいよ。現に私はそんな考えを持っていない。利益も関係なしに、君達を助けたい」


それはいけないこと?そう尋ねれば彼は変な奴と目を丸くしていた。変で悪かったな。


「金吾が目を覚ましたことも、あなたへの不信感を和らげることに繋がったんです」


今度こそ、ありがとうございますと庄左ヱ門が頭を下げる。だからそれはいらないよ、と言っても聞いてくれないようだ。


「じゃあ、まずは君達のこと…まあ名前教えてもらってもいいかな?」


するとみんなはここは学級委員長からっしょ、そうだよ委員長からだよね、その後に続こうとみんなの声が聞こえた後それじゃあ僕からとお礼を言った彼が私を見上げた。


「黒木庄左ヱ門です。寝ているのは皆本金吾と言います」


恐らく過去から来たと認識すれば、みんなの名前が昔な気がするのは勘違いじゃないんだろう。


「僕山村喜三太〜、こっちは僕のナメクジさん達で〜」
「それは後回しな。俺は加藤団蔵!よろしくな!」
「団蔵うるさいなあ…あ、ニ郭伊助です」
「控えめだな。俺は佐武虎若」
「虎若もね。僕は夢前三治郎。初っぱなからツンツンしてるのは笹山兵太夫って言うの」
「な、何だよその紹介!」
「兵太夫がうじうじしてっからだろ〜、俺摂津きり丸!初対面は悪かったな!」
「きり丸切り替えはやー…僕は福富しんべヱです!」
「治療ありがとうございます。猪名寺乱太郎です」


それぞれが自己紹介を終えて、じっとこっちを見てくる。私も言えということなのか。


「藤堂紗英。もう一度言っとく、成人してるしちゃんと仕事もしてる。君達くらいなんなく養えるから任せといて」


大きくでかいことを言った私。だけどお金があるのは確か。だって使われていないお金がたくさん残っているんだから。



「まだ私を完全に信じろとは言わない。あなた達が信じるのは自分達だけでいい。自分を仲間を信じて過ごしなさい。毎日、生きることだけを考えて生きて」


私がこの世界で言えることはそれくらい。つまり、これしか言えない。
年上だろうと5年だけ。それに生きてきた場所も時間が違う。

おそらく、私なんかより不自由な生き方だったはず。便利に満ち溢れた今のご時世とは全く違う。それならいつかは戻る彼らに変な知識を与えすぎてはいけないはず。


「……藤堂さんは、僕らをどう思っているんですか?」



黒木君が顔を伏せ聞いてきた。その言葉にどんな意味が込められているのかわからない。だけど、私は思ったことをそのまま口にする。


「変な集団!だけど、悪い奴らじゃなさそう!!」


それだけだよ、と言い放てばまた加藤君大爆笑。年上に失礼を知りなさい、まずは。


「おもしろいなあ藤堂さん。こりゃからくりでからかいがいがありそうだ」
「三ちゃん?初めての人にはあんまり刺激的なのはダメだぞ?」
「もちろん。驚愕的なので攻めるよ」
「それもアウトだからな?せっかくこここんなに綺麗なんだから汚す必要はないよ」


一体何の話をしているやら。はあ、とため息をつけば猪名寺君が私にあのと声をかけてくれた。


「私達は戻る方法を探します。その間、どうぞよろしくお願いします」


深々と頭を下げる彼。それに釣られてかみんなも頭を下げて私はそれに驚いて両手を振る。


「も、そーゆうのなし!!ここ私しか住んでないから好きに使っていいから!!」
「それ、二言はないですか?」
「女に二言はない!!好きに使っていいよ!!」



私がその言葉を最大に後悔するまで、あと14時間。









(うっわあああ!!)
(あ、またはまってやんの)
(三ちゃん、兵ちゃん。完璧楽しんでるよ)




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