短編
□乙女は奪われることを待ち望んでいました
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「黄瀬君、エッチしませんか?」
その瞬間、俺はギャグ漫画みたいに飲んでいた水をブッー!!っと吹き出した。
唇から零れ落ちる水を拭おうともせず、思わず彼女を凝視してしまう。
「ちょ、なっ、いきなり何言ってるんスか黒子っち!!」
「何って、だからエッ「ワァー!!ストップストップ!!言わなくていいから!」」
二人以外誰も居ない部室に、俺の焦った声が響き渡る。
あまりに前置きもなく発せられた言葉に、どう反応したらいいのか戸惑ってしまう。
彼女は一体何を考えているのか、いつもと変わらぬように見える表情からは読み取れない。
「む、無理っスよ、そんなの。ほら、ここ部室だし?」
「部室じゃなかったら、してくれるんですか?」
「それ、は…」
意地悪な表情で、口元の雫を柔らかい手で拭う彼女の瞳から視線を外すことができずに硬直してしまう。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか
ニッと口角を上げて1つ笑うと言った。
「大丈夫です。自主練していた僕たち以外、皆さん帰りました」
だから、ね?
とズイズイ近づいてくる。
いやいやいや、そんなキメ顔でこられても!!
ウジウジしている俺に痺れを切らしたのか、彼女はハァと溜め息をつくと口を開いた。
「ならば黄瀬君、大人なキスで許します。それぐらいなら大丈夫でしょう?」
ぷっくりとした柔らかそうな唇に、ちょこんとキレイな人差し指を当てて、小首を傾げて聞いてくる彼女のかわいいこと
大人な、ってつまりあれですかディープな感じのやつですかマジですか俺そんなのしたことないんスけどってか今これどういう状況なんスか!?
なんて考えている間にも彼女の顔は近づいてきて
ふわりと揺れるセミロングの髪からは甘い香りがして、妙に意識してしまう。
艶やかな唇に、一気に目を奪われた。
ごくりと喉が鳴る。
「黒子っち…」
触れるだけのキスじゃダメなんです
もっと貴方を感じていたいのに
(攻めてきてくれたっていいじゃないですか
黄瀬君のバーカ)