短編
□行けない
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あぁ、ついにこの時がきた
皆は分かってくれるだろうか
こんな俺を赦してくれるだろうか―――――――――――――――――――――――――
天馬達から離れて歩み寄ったのは、俺達の敵であるはずのベータの元
ムッスリと頬を膨らませているベータの頭をワシャワシャと掻き混ぜてやる
「ちょっと円堂さん、やめてください。せっかくセットした髪が台なしになるじゃない」
「あはは、悪い悪い。ベータは女の子だもんな!」
「むー、ホントに反省してますか?」
「当たり前だろ!」
「…なら別に許してやらないこともないですけど」
ありがとな!と言いながらまた頭を掻き回せば、やっぱり反省してないじゃないですか!と睨みつけられた
けれどその様子は円堂からしてみれば、ただ上目遣いされているだけにしか見えなくて、思わず笑みが零れてしまう
どんなに大人ぶっていても、やはり彼女はまだ子供なのだ
寂しがり屋の
小さな女の子なのだ
ぽんぽんと頭を撫でてやれば、嬉しそうに笑う彼女に微笑み返し、俺は彼女に背を向けた
目線の先に大切な教え子達を見とめて言う
「"はじめまして"
プロトコルΩ2.0の監督、円堂守です」
以後お見知りおきを
そう言った時の彼等の表情がグサリと胸に刺さったが、それでも俺は今、彼女の元を離れるわけにはいかないのだ
彼女を一人にはしない
閉じ込められている間に決めたのだ
彼女に友達をつくってあげると
仲間の素晴らしさを教えてあげると
(だからまだ、俺はそっちへは帰れない)
監督として、彼女達に教えなければいけないことがまだ沢山残っている
俺は俺が出来ることをする
ベータ達に振り返る
そして一つ指示をとばす
「俺が皆に言いたい事はただ一つ。
サッカーを楽しめ!!
それだけだ」
サッカーの楽しさを知ってもらうこと
俺には少し背中を押してやるぐらいしか出来ないけれど
(天馬達なら)
きっと彼女を変えてくれる
俺の個人的な理由で天馬達を巻き込みたくはなかったのだけれど
俺には出来ない新しい風を、彼等なら起こせるはず
(俺は信じてる)
天馬達を
ベータ達を
サッカーの力を
だからさぁ皆
「サッカー、やろうぜ!!」