短編

□ずっと側にいても良いですか
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ふと気がついたら、もう既にここに居た。

周りは闇に包まれ、物音一つしない世界。

記憶を辿ってみて思い出してみた。
さっきまでサッカーを護る為に天馬達と戦ってて、それでーー
そう、確かサッカーボールに吸い込まれて封印?されたんだった。


あぁ、俺封印されちゃったんだ、などと冷静に考えている自分に驚く。
敵に捕まっているというのに、何故か危機感を覚えなかったのだ。

天馬達、ちゃんと逃げ切れたかなぁ?と思っていると、フワリと風を感じた。


「お目覚めですかぁ?円堂さん」


どこからともなく現れたのは、俺を封印した張本人、ベータだった。

さすがに逃げなければと体が反応しようとする。
なのにピクリとも体が動かなかった。


「無駄な抵抗はしない方がいいですよ?まぁ、逃げようにも方法なんて無いでしょうけど」

抗議の声をあげようにも、喉は音を発することなく、ヒューヒューと空気が通るだけだった。

クスクスと妖艶な笑みで笑うベータ。


「円堂さんは私のもの。これからはずぅっと一緒です」


ーー円堂さんは渡さないーー


「そうそう、貴方が庇った教え子さん達はちゃんと逃げ切りましたよ。まぁ、すぐ見つけちゃいますけど」

その言葉にホッと胸を撫で下ろした。
あぁ、よかった天馬達はちゃんと逃げ切れたのだ。
それならばいい。
アイツ等なら、俺がいなくても、きっとサッカーを未来を救ってくれる。


「……………」


無事が確認出来た所で、次は自分がどうやって此処から逃げ出そうか考えていると、また沈黙がおとずれた。

唯一音を響かせるベータが黙り込んだからだ。

そして、小さな声で呟いた。

「……円堂さんには、仲間が沢山いるんですね」


ごくごく小さな呟きだった。
普段なら絶対聞き取れないくらい小さなもの。
ただ、この物音一つない空間には、凄く澄んだ音として、俺の耳に入ってきた。

いつもの強気なベータからは考えられないくらい、弱々しいものだった。


「淋しくならないように、また来てあげちゃいますね」


バッといつもの口調に戻って早口に言うと、彼女はスッと何処かへ姿を消した。

また自分一人だけになってしまった。
さっきまでどうやって逃げ出すかについて考えていたはずなのに、何故か違う事で頭がいっぱいになった。

だって、彼女が、ベータが

ーー泣きそうな顔をしてたからーー
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