短編

□初めての手紙
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月末になると、決まって円堂は薄い給料袋を封も切らずに持って、郵便局へ飛び込んでゆく。

チームメイトがそんな彼をみて「金の為だけにサッカーやってるのかよ」と飲んだ勢いで嘲笑ってる姿を見たことがある。
別に本気でそう思ってる訳じゃない。
彼と一緒にサッカーをしたら、誰だって彼がサッカーを愛していることぐらい分かる。
ただ、純粋にサッカーをしているだけではないと感じる部分があったからこそ、口から出た言葉だったのだろう。
この時、円堂はニコニコ笑うばかりだった。


俺だけが知っているのだ。
彼がこの場所へ来る前にたった一度だけ
たった一度だけ哀しい誤ちを犯してしまったことを――――


あれは試合帰りの雨の夜のことだった。
白熱した試合の後だったこともあり、円堂はその日とても疲れていた。

だからといってこの罪が消えることはないのだ。
横断歩道の人影に、ブレーキが間に合うことはなかった。


『人殺し』
『あんたを許さない』


そう円堂をののしった被害者の奥さんの涙の足元で、彼はひたすら大声で泣き、ただ頭を床にこすりつけて謝るだけだった。

「ごめんなさい」
「全て俺のせいです」
「ごめんなさい」

ひたすら謝罪を口にする円堂を、俺はどうする事も出来ずに、いたたまれない気持ちで見つめるだけだった。




それから円堂は人が変わった。
今まではサッカーが大好きで大好きで。
楽しんでプロサッカー選手をしてきていたのに。
今の彼は何もかも忘れて
働いて
働いて
楽しむ気持ちよりも償わねば、という気持ちが彼を動かしているように思えた。


償いきれるはずもないが、せめてもと毎月あの人に仕送りをしているようだ。
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