短編
□やばいやばいやばい…
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「おーい、サイコー!頼まれてたトーンってこれであってたっけ?」
今では我が家以上に通い慣れた仕事場の鍵を開け、俺、高木秋人は相棒の真城最高へと声をかける。
といっても目の前に彼がいるわけではない。
俺が居るのは玄関で、彼は奥の部屋で原稿をしているはずである。
今回の原稿の締め切りが間近に迫ってきているので、もし違う種類のトーンならばもう一度走って文具店に行かなければ間に合わない。
靴を脱ぐのが面倒なので玄関から声をかけたのだが、いくら待っても返事がない。
おかしいな、と思い部屋の中へと入る。
「お〜い、サイコー…?」
ひょいと中を覗き見れば、スヤスヤと眠る彼を見つけた。
最近遅くまで原稿をやってた事を思い出す。
フと横を見れば綺麗に整頓された原稿用紙が目に入る。
どうやら殆ど完成に近いようだ。
(相変わらず上手いなぁ)
マジマジと見れば改めて彼の絵の上手さに驚かされる。
時に優しく
時に激しく
彼の生み出す線は生き生きとしている。
いったいどうやってこの小さな手から、様々な世界を紙に描き出しているのか不思議でならない。
「…ん……」
感心していると最高が寝苦しそうにゴソゴソと動く。起こしてしまったのかと思ったが、まだまだ夢の中のようだ。
起きる気配がまったくない。
せっかく急いで帰ってきたのに、とムッとした表情で最高の頬をぷにぷにと人差し指で触る。
その肌は男子とは思えないほど白く、軟らかい。
(あーあ、無防備に眠っちゃって)
今ならマジックで顔に落書きしても起きないんじゃないだろうか、なんて考える。
吸い込まれるようにジッと彼の顔を見つめてしまう。
(なぁ、サイコー。お前、俺の事、どう思ってる?)
ただの同級生?
無理矢理漫画界に引っ張ったウゼェやつ?
それとも友達?
それとも
それとも――――