長編

□二度めまして
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あれは部活帰りのことだった。

その日は昼から雨が降ってきたので、軽くアップしただけで、いつもより早く部活を切り上げることになった。

「おい、円堂そろそろ帰るぞ?」

着替え終わり、皆がゾロゾロと帰る中、何やら外をジッと眺めている幼なじみに声をかける。

彼は今だにユニフォームのままだ。
ふい、と彼が見つめていた場所をみると、いつものこの時間ならばチームメイトと一緒にサッカーの練習をしているであろう、サッカー場がみえる。


「なんだよ、まさかこの雨の中練習するなんて言い出さないだろうな?」


軽い冗談のつもりで言ってみたものの、彼なら本当にやりだしかねない、とリアルさが増す。
このサッカーバカなら例え火の中水の中、サッカーをやり続けるかもしれない。

だがその考えは外れたようで、彼は首を横に振る。
やはり円堂といえど、この土砂降りの中ではサッカーは出来ないと判断できたようだ。
ちゃんと常識を持ち合わせた幼なじみでよかった。


「いつもならやって帰ってたんだけどさ〜」


前言撤回。
やはり彼の頭の中はサッカーしかなかった。


「だけど、何だよ?」
「この前の雨の日、練習して泥まみれになって帰ったら、母ちゃんにこっぴどく怒られてさ。
雨降ってるんだから、練習しないでちゃんと傘差して濡れずに帰ってきなさい!って言われてて……」

円堂のお母さんがサッカーをあまり良く思っていないのを知っている風丸は、その状況が想像出来た。
いつもは穏和な円堂のお母さんも、サッカーのこととなると容赦がないのだ。


それはともかく円堂の母親の言うことはもっともで、練習するわけじゃないんなら早く帰ろうぜ?と言ってやると、口を尖らせながら


「傘……忘れた」


と返事が返ってきた。
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