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□ハッピーバレンタイン
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「……ガラじゃねェのになァ…」



丁寧にラッピングされた箱の入った
シンプルな紙袋を右手に呟く。


今日は02月14日。
世の言う、バレンタインデーという日だ。

今まで生きてきて
貰った事は毎年あるのだが
チョコをあげるなんて事は
一度もない。

況してや、この俺がチョコレートなんて…。
ガラじゃなさすぎて、笑ってしまう。


でも、これはアイツの為に。
アイツの為…に。





煙管を加えて、気持ちを落ち着かせながら
人通りの少ない道を歩き、万事屋へ向かう。


なるべく下を向き、
周囲にバレぬよう万事屋の階段を昇る。

玄関の前に立ち、一度大きく深呼吸をして
インターホンを鳴らした。


インターホンが鳴り終わると同時に
かったるそうな声が響いた。



「はいはーい、、新聞ならいらねーぞー」


ガラガラガラーー…


「っと…アレ?晋助?」


「よ、よォ…」


「どーしたの、こんな急に〜。
いつもなら連絡してくんのに」


「あぁ…忘れてた」


「あぁ、そう。まぁ、いいや。
ちょうど神楽も新八もいねーんだ。
バレンタインだからどーのこーの〜とか言って
朝から飛び出して行きやがったよ」


「そ、そうか…」


「まぁ、とりあえず上がれや」


ほれ。と手招きをされ
中へと誘導される。

中に入ると、すぐにソファーに腰をかけた銀時に続いて
俺も反対側のソファーに腰をおろす。


「…ん?」


辺りを見回すと、銀時の机の上には
沢山のチョコレートが置いてあった。


「あぁ。アレなぁ。なーんか
朝から来客が多くてさぁ。
今年はチョコが大量だよ、銀さん。
お前より多いんじゃねぇ〜?」


「…随分モテるんだなァ、オメェは。」


沢山のチョコから、床に目を向け変える。


「まぁねぇ〜。まぁ、無理もないよなぁ!
銀さん、優しいし、カッコいいし?」


「……」


なんだかモヤモヤする。


「あり?晋ちゃん?」


「そんな、アホみてェな天パーと
死んだ魚みてェな目したヤローの
どこがいいんだろーなァ。」


「オイ、コラァ。高杉くん?
そんな天パーで死んだ魚みたいな目したヤローが
好きなのは、そこのアナタだよねぇ?」


「別に好きじゃねェ」


「えぇ、何ソレぇ!
どーしたの晋ちゃんっ。
急に機嫌悪くなっちゃってぇ…。
あ、もしかしてチョコ?」


「ち、違ェよ、バーカ!」


「えぇ、そぉおー?」


目を細めて除きこんでくる銀時から
目を逸らしながら、こっそり
自分の後ろにチョコを隠す。


「うるせェな」


「ヤキモチやいちゃったの?晋ちゃん。
ごめんねー、モテる男で」


うっうっ、っと
泣いたフリをする銀時に腹が立った。


「…帰る」


バッと立ち上がり、チョコも急いで取って
隠すように玄関に向かおうとしたのだが、
思いきり腕を引かれて床に倒れこんだ。


「いっ…!んだよ、テメェ」


「何で帰るんだよ。まだ来たばっかじゃん」


「うるせェ、離せ」


俺の上に覆い被さるようにする銀時を
押し退けようとするが
手をパシッっと捕まれた。


「なんで怒ってんのぉ、晋ちゃん?」


「っ…るせ、怒ってねェよ」


「ふぅん?じゃあ何しに来たの?」


「別に…ただの気まぐれだっ」


「…」


「な、なんだよ……っあ!?」


急に黙りこんだと思ったら
スッと胸に手を滑り込ませてきた。


「なっ、テメ!!何して…っ」


ギュッと目を閉じて唇を噛みしめる。
こうなったら銀時には逆らえない。
それでも抵抗しようとした。

が、ガサっと音を立てて手を抜かれたので
目をあけて銀時を見上げた。


「…コレ、渡しにきてくれたんだろ?」


見透かしたような笑みを浮かべて
俺の目の前に紙袋を見せつける。

そう。
俺が銀時に渡そうと持ってきた
チョコレート。


「……」


「素直に渡してくれりゃいいのに」


「るせっ!お前のじゃねェよ!」


「じゃあ、誰の?」


「それは自分で食おうと…」


「え?晋ちゃん甘いモン嫌いだよな?」


「え、あっ…」


「晋ちゃん?」


「っ…何だよ。
テメェはあんなにチョコ貰っただろ!
ならさっさと食えよ。
モテる男はいいなァ」


「でもアレ、全部…あ、本命もあるけど
ほとんど義理チョコだ。」


「でも、本命だって貰ってんじゃねェか。
それに浮かれてやがってたじゃねェか。」


「本命チョコはもらったけど、
俺の本命の人には、チョコ貰ってねぇよ?」


「あ…?」


「俺、まだ好きな人からチョコ貰ってないから
悲しいんですけどー。
両想いじゃねぇのかなぁー?」


「っ…!」


フッと優しく微笑み俺の体を起こす。
そのまま銀時はチョコを俺の前に置く。


「チョコ、くれねぇの?
今日はバレンタインデー。
好きな人に、チョコを渡して
気持ちを伝える日だぞー?」


ホントにムカつくヤローだ。

目の前にあるチョコを手に取り
中身を開けて、チョコを自分の口に放り込む。


「あ゙!!ちょ、晋ちゃ……っ!?」


銀時が言い終わる前に
俺の唇で銀時の唇を塞ぐ。

そのままチョコを、銀時の口に移して
ゆっくり口を離した。




「……すっ………きだ、………」


「……」


俯いて一言。
ガラじゃねェ。

やっぱり、ガラじゃねェよ、銀時。




「うまい」


「…よ、かった」


「晋助」


「っ!?」


「ありがとう。
俺は、愛してるよ」


そのままゆっくりと唇を重ねる二人。



















バレンタインデー。

今までの俺には、どうでもいい行事だった。

けど、ガラじゃなくても、
こっ恥ずかしい台詞言わされても、

オメェが喜んでくれんなら、
来年も、再来年も、ずっと
チョコを渡しに来るさー…。

悪くねェな、バレンタインデー。





















「晋ちゃん」


「ん?」


「さっきの渡し方に、最後のセリフ。
アレ、やばかった…」


「っ!…だ、まれ!」


「すっげぇキちゃったよ。
俺の息子さんが大反応してる!」


「ハァっ!?」


「ハッピーバレンタイン!!
本命のチョコレート、頂きまぁーすっっ!!」


「なっ!!バカ!!
おらァ、チョコレートじゃねェェ!!!」















ーあとがきー







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