MAINC[小説]
□manicaretto(パラレル編…作者:よしき)
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閑静な住宅街の一角に、そのレストランはある。
客に対してアピールするのは、イタリア国旗のタペストリーのみだ。
勇気を出してそのドアをくぐった者だけが、幸せな時間を得ることができる。
この店は、半分だけ血の繋がった兄弟が営んでいる。
父は同じだが、全員母親が異なるのだ。別に父親が浮気性なわけではない。
一番目の妻は死別、三番目は協議離婚、そして同じく離婚した二番目の妻は、なぜかいま四番目の妻になっている。
店の名は《アラウディ》、イタリア語で雲雀を指す。
その名に特に意味はないが、結局三人の息子の母となった現在の妻の旧姓が雲雀であることは関係しているのかもしれない。
さらに、偶然ではあるが長男の名もアラウディとあっては、当然の名といえるだろうか。
とにかく、彼らは日本へ来てこの店を開いた。
アラウディは料理もするが、経営および金銭管理が専門だ。
厨房を任されたのは、三男の恭弥である。
そして、次男のディーノ。彼だけは何をしについてきたのかわからないが、愛想だけは良いので、接客をさせることで彼らは同居を認めた。
三人が三人ともいわゆるイケメンであることも幸いしてか、リピーターも増え、店は軌道に乗った。
普段は愛想なしのアラウディも客の前では笑顔を絶やさず、そこにディーノの調子よさが加わると、女性客はそれだけで幸せになる。
そのうえ、料理は有名レストランにも劣らないとなれば、客は増える一方だ。
「店広げりゃいいのに」
ディーノは気楽に言うが、恭弥の目は冷たい。取材や女性客ばかりが増えることが、彼には不満らしい。
彼の希望は、常連客が気軽に訪れる地元密着のリストランテだった。
「キョウ、この前の変な客、誰だかわかったぜ」
ある日、買い物に出ていたディーノが、楽しそうに帰ってきた。
この前の変な客、という言葉に、恭弥が反応する。
「それって、フワフワの?」
「うん、そう」
フワフワとは、その客の頭のことだった。数日前、その客は店を訪れた。