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□PROTETTORE(パラレル編…作者:よしき)
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「仕事?」
「はい、日本に観光旅行で来る少年を護ってくださいと」
「ぼくに、子どものお守りをさせるつもり?」
「恭さん、これはイタリアからの命令です」
「・・・あいつか」
「これを。本部から届いたメッセージです」
示されたモニターに、黒尽くめの男が映し出された。
「よお、雲雀。おまえのことだから、ガキの面倒なんかごめんだと言ってそうだが、これはオレの知り合いからの依頼だ。
任せられるのはおまえしかないと考えたオレを、裏切るんじゃねーぞ」
黒いボルサリーノの下から鋭い眼光に射られた気がする。
イタリアに本部を置く警備会社の日本支部で、雲雀恭弥は不機嫌そうにモニターを睨んでいた。
「まあ、そういうことですから」
苦笑いを浮かべたマネージャーの草壁が、仕方ないんです、と目で訴える。
イタリア本部の実質的ボスであるリボーンには、恭弥も未だ敵わない。
研修で会うたびに手合わせを願うが、あと一歩勝ちに届かないのだ。
「イタリアでも有数の大富豪からの依頼らしいですよ。
リボーンさんも友人からの頼みだからこそ、腕利きの恭さんに任せたのでしょうし」
草壁の世辞を含んだ説得を、恭弥は片手を振って拒んだ。
「いいよ、仕事は受けよう。ただし、対象に優しくなんてできないからね」
「10歳も年下の子どもですよ、お手柔らかに」
無駄と思いつつ告げながら、草壁は恭弥に資料を手渡した。
「到着は明日の昼過ぎです。空港から仕事を始めてください」
席を立つ恭弥は、資料を手に軽く頷いた。
「どう扱うかは、本人を見てからにするよ」
閉まるドアに向かって、草壁は大きなため息をついた。
翌日、気乗りしないまま恭弥は国際空港にいた。
気に食わない仕事はしない主義だが、リボーンが直々に命令してくる相手には興味がある。
ここで憎たらしい相手に恩を売れるかもしれないという打算もあった。
到着便を確認して、恭弥は出口付近の柱の前に立った。
行きかう人々に目を配りながら、昨夜目を通した資料を思い返す。
護衛対象はまだ幼さの残る少年だった。
伊日のハーフである少年は、髪も目も色が薄かった。
写真で見る姿は細身だが健康そうで、幸せそうに笑う顔には命の危険などまったく感じられなかった。
(・・・お家騒動とは、面倒な話だな)
依頼主の大富豪は、60代の老人だった。
彼の不幸は、二人の息子がいずれも若くして亡くなったことだろう。
息子たちはそれぞれ、自分が選んだ女性と結婚し、息子が生まれていた。
老人としては、孫のいずれかに自分の事業を継がせたいと思っても無理はない。
だが、周囲の反応は様々だった。
特に、長男の妻である女性は自分の息子を跡継ぎにすべく行動を始めているらしい。
彼女に同調する者たちは、恭弥が護る少年を日本人とのハーフだといって拒否しているという。
歴史ある家系に、他国の血は必要ないというのだろう。
老人が、生前の息子たちのうち次男をかわいがっていたという事実は、さらに彼女たちを燃え立たせている。
それがエスカレートし、次男の息子を殺そうとするかもしれない、それが依頼人の懸念なのだろう。
(迷惑な話だ)
気の毒には思うが、家内の揉め事は自力で解決して欲しいものだ・・・そんなことを考えるうちに、少年の乗った飛行機の到着がアナウンスされた。