指切り

□自分の足で歩いてゆこう
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気分も落ち着いてきたところで、いつまでも保健室でめそめそしてばかりいられない。
時計を見ると、予定どおりなら1年生は各々の教室で学校説明を兼ねたホームルームをしているはずの時間で。
いくらなんでも初日を休むのはマズい気がする。早急に座り心地の良いソファから立ち上がり、教室に向かうことに決めた。

「…もう行くのか?」

のんびりした調子の先生に軽く一礼して、
「はい。入学式はもう終わってしまいましたが、せめて初日のホームルームは出ておかないと」
「それもそうか」

と言って、眠そうに欠伸を一つ。その動作は欠伸と言うにはあまりにも優雅で、思わず先生を凝視してしまいそうになる。

「(…って、何赤くなってんの私)」

意識するとひどくなりそうなので、足早に扉に向かい、ぎくしゃくと取っ手に手をかけた。

「ちょっと待て」

ほんの少し扉を開けたところで、依然ソファに凭れたままの姿勢の先生に呼び止められる。振り返るとどこかからかいの色が含まれる笑みを向けられていた。

「お前、自分の教室の場所分かるのか?」
「……………あ」





結局その後呆れられながら先生に案内され、無事目的の教室に着くことができた。
ただでさえ広い学園だから、先生に付き添われていなかったら教室に辿り着くどころか、変な場所に迷い込まなかった自信がない。

「じゃあ、まあ頑張れよ」

ぽんぽんと頭を撫でる先生。慌ててお礼を言うと、またいつでも来ていいからな、と微笑まれた。
廊下の角を白衣姿の先生が曲がって行くのを見送り、さて。と教室の扉に向き直る。
改めて考えるとなかなか入りにくいものだと思う。入学式も出てないうえ、女子は一年で私1人と言うから尚更。

「…こうしてても、始まらないよね…」

大きく息を吸って、吐く。深呼吸。
腹を括ろう。やると決めたからには投げ出すわけにはいかない。
ゆっくり、前を向いて。内心ドキドキで倒れそうな緊張感と共に、私は星月学園一年天文科ーーーの扉を開いた。



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