05/05の日記

23:04
最中のもなか。
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視線を感じる。

じりじりと焼けるような熱い視線。

しかしそれは俺の手元にあるものに向かっているような。

「……小野寺」

「!!」

ふいっとそらされる視線。

今日何回目のやり取りだろうか?

小野寺の視線が俺の手元にあるもなかアイスに注がれていることは明確なのに、名前を呼べば知らん顔。

時刻は午後3時を少し過ぎたところ。

周りの社員もガサガサとカバンを漁っては、食べられるようなものを口に入れている。

俺が持っているこれは先ほど席を立ったときに自動販売機で買ったものだ。

液体を編集部に持ち込むのは危険だから、アイスならいいだろうと思った結果。

……その予測は外れていたようだが。

「………」

無言でこっちをちらちらと見てくる部下、1名。

いつもなら木佐あたりが小野寺に餌付けをしているのだが、その木佐は生憎出張のために会社にいない。

美濃も羽鳥も作家のところに出向いている。

また一口、もなかアイスがなくなる。

小野寺の動きも、そのたびにビクリ。

……素直に言えばいいものを。

「ひとくち、食べるか?」

「いっ……いりません!人の食べ物を欲しがるなんて、意地汚いです!」

「………」

……こいつ、どうしてここまで素直じゃねーんだろーな。

人が気を遣ってやったというのに、その態度か。

かと言って、小野寺の視線がなくなることはなく、相変わらずこちらを気にしている。

俺から貰いたくないなら買いに行けばいいのに……いや、俺とおそろいになることが嫌なんだろうな。

……全く、めんどくせーやつ。

「俺、もう腹いっぱいなんだけどなー」

「………」

「どうするか、勿体無いけど捨てるか」

「……っ!」

がたっとイスから立ち上がる音。

これは勿論自分が立ち上がった音だ。

そしてゆっくりと、小野寺の席の後ろを通り過ぎる。

「あ、あの!」

「なんだ?」

予想通り引っ掛かりやがったな、こいつ。

案外単純で素直な小野寺に笑いそうになるが、そこは必死に堪えて。

「いっ、いらないなら……俺が食べてあげてもいいですよ」

しかし、どこまでも可愛くない奴だ。

この口は「俺、食べたいです!」なんて素直な言葉も、「高野さんが好きです」という言葉も発することができないらしい。

それもまた愛しいと感じてしまう俺はちょっとやばいかもしれない。

「ほらよ」

そんな目の前の可愛くない奴は、俺が渡したアイスもなかに一目散に飛びついた。

「こんなにおいしいのに勿体無いですよ!」なんていいながらかぶりつく小野寺の顔は、言葉とは裏腹に花が飛んでいるのではないかと思うほどに幸せそうで。

どんだけもなかアイスが好きなんだよと言いたくなったが、幸せを壊さないためにも言わないことにした。

……だけどまあ。

もなかアイスと引き換えにこのくらいは言ってやってもいいだろう。


「そういえば小野寺。これって間接キスだよなー」


こそっと仕掛けたイタズラが成功するのは100パーセント確実。

段々と顔が赤くなっていく小野寺を見ながら、俺は喚かれるのは今から何秒後だろうなどと考えていた。

それを楽しみにしている自分を感じながら。


END.


久しぶりの更新がアホっぽいお話ですみません。
これ、実体験なんです。
私はどちらかというと律っちゃん側でしたが(笑)
「最中」っておもしろい熟語ですよね。
変換すると、

さいちゅう→最中 もなか→最中 さなか→最中 

なんということでしょう。
因みにタイトルは「さなかのもなか」と読みます。
特に意味はないです、すみません。


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