5ケタhit感謝企画

□君という代名詞
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「きりーつ、礼!!」

「「「ありがとうございました」」」

「はい、ありがとうございました」

 ずれた眼鏡を直しながら目の前の生徒達にお礼を言った。

俺、小野寺律はピカピカの新人先生。

今年この高校に赴任してきたばかりで、現国の先生をやっている。

今は2つの学年で毎日精一杯活動中。

「センセー!また来てねーー!」

「気が向いたらね」

 俺と生徒の受け答えに湧きあがる教室。

コミュニケーションも上手く取れてきて、毎日が充実していた。

ただ、

「先生、また眼鏡がずれてる」

……コイツがいなければ、もっと楽しいかもしれない。

ばっと振り返れば、いつもの姿がそこにあった。

「高野!敬語を使えって言ってるだろ!」

「そうでしたね、すみません」

 今あくびをしながら俺の目の前にいる人物は、高野政宗。

俺よりも年下のくせに身長があって、大人びていて……とにかくなんか生意気!

「おいおい高野。また先生といちゃついてるのか?」

「うるせーな……そうだけどなんか文句あるか?」

 同級生のからかいの言葉に、またまただるそうに受け答えをする。

しかもこいつ……さりげなくなにアピールしてるんだよ……!

「と、とにかく!みんな、次の授業までに今日のプリントをやってくること!集めるからね!」

 俺はそれだけを言い残すと、そそくさと教室を出て行った。

そのときの高野が、どんな顔で俺の後姿を見ているかなんて知らずに……。



「ふぅ……」

 生徒のざわめきが届かない職員室へ入ると、俺は肩の力を抜いた。

やっぱり、生徒の前に立つと緊張するのだ。

(ああ、ちょっと肩凝ってるかも……)

「大丈夫か」

「あ、羽鳥先生。大丈夫です、ありがとうございます」

 俺が今にこやかに返事をしたのは、羽鳥先生。

俺の先輩で、席が隣ということもあって、いろいろ気にかけてくれている。

「お疲れ様です。羽鳥先生、次は授業ないんですか?」

「ああ、次はここで仕事だ」

 羽鳥先生は、いつものように淡々と答えた。

だけど、その顔にはいつもとは違う疲労が見える。

「あの、羽鳥先生。……何か悩んでますか?」

「…ちょっと生徒がな……」

 羽鳥先生がそんな風に悩むなんて珍しい。

普段、いろんな仕事を完璧にこなしている人でも、やっぱり悩みはあるものなんだ……と、勝手に感心してしまう。

「生徒と、何か問題でも?」

「……とある生徒がいるんだが、そいつが授業を寝てばかりで、ついに赤点をとった。だからそいつに個別補習を施せと、上から命令が」

「へ、へぇ……」

 個別補習って……そんなにひどい結果だったのか。

「寝てても点数がとれれば、こんなことにはならないんだがな」

「はは…そんな生徒がいたら、見てみたいですよ」

 寝ていて点数がとれるなんて、夢のまた夢の話だ。

勉強をしなければ、それに比例して点数もさがっていくのが当たり前なのだから。

「いるだろ」

「ですよねー……って、え?」

 羽鳥先生からでた予想外の言葉に、俺は動きが一旦止まる。

今、いるっていったよな?

疑う俺に、羽鳥さんはその先の言葉を続けた。

「先生も知ってるだろ、高野政宗。あいつは授業ではいつも寝てるが、テストでは大抵9割とっている。
 点数はいいのに授業態度がよくないから、成績をつけるのが難しい生徒として、有名だが」

(え?)

「羽鳥先生〜!ちょっと吉野千秋の補習のことでお話があるのですがー!」

「ああ、今行く。先生、失礼」

 羽鳥先生はそう言うと、席から立ち上がって、呼んだ先生のところへと行く。

「………」

 羽鳥先生がいなくなると、今度は俺が悩む番。

なんでこんなことで……。

(あーー!ダメだダメだ!)

 俺はがばりと立ち上がると、頭を整理すべく、もっともっとざわめきの届かない場所へと向かった。
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