宝物

□Magical Night
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 やがて声が止み、話は済んだらしいと理解する。

 血の匂いを辿ってとか、なんの冗談?

 それともマジックを駆使した新手の詐欺だろーか?

 だってそうだろ?

 ヴァンパイアなんて映画や小説にしか存在しないキャラクターでしかも日本じゃマイナーだ。

 まさかコイツ、この部屋をハロウィンパーティーの会場と間違えてやってきたのか?

 あまりにもバカバカしい内容に怒りすら覚えながら、にこにこと好意的な笑顔を向けてくるムカツク王子顔に訊ねる。

「結局エサになれってこったろ?」

「……は?」

「お前に血を差し出せば俺は若さが手に入れられる。ギブアンドテイクだって云いたいんだろ?

 ざっけんな!こう見えてもこっちは三十路なんだよ!アクセク働いて生きてんだ!

 そら、決まった恋人もいねーし、クソみてーな男に殴られたり。自分でも情けネエって思うこともあるけど……

 ……んな与太話に付き合ってられっかよ?!」




 イラっときた勢いに任せて怒鳴り始めたはずなのに。

 なぜだろう、怒りよりも切なさが募り、ぼろぼろと涙が零れ始める。

 仕事だってまあ頑張ってるし、同僚にも恵まれてると思う。

 でもオフになった途端、頭を擡げてくる寂しさをどうにも持て余して。

 寂しさ埋めたい一心から結局男をとっかえひっかえとか……サイテーな俺。

「……恋も知らない。みんな体だけが目当てで……。

 愛し合いたいだけなのに……そんな奴どこにもいないんだ……」

 所詮は男同士と割り切って、行きずりすら楽しんでたはずなのに……。

 結局俺がしてきたことは本心から目を逸らしていただけだったと、今更ながら気づかされる。

 やるせなさに一層込みあげてきた感情にヒクリとしゃくり上げた時、ふわりと抱きしめられた。



「……ぅえ?」

「こんなに泣いて……、なんて可愛いらしい人なんですか?

 誰もいないとあなたは云った。なら俺と恋をしませんか、木佐さん?」

 口説きながら完璧なラインを描く唇が目の前に迫る。

 うわと慌てた時にはキスされていた。

 唇を掠めた熱に上げかけた声は、隙間から入り込んで来た舌に深く絡めとられる。

 巧みな口づけに腰砕けにされ、ぼうっとのぼせた頭からは『抵抗』の二文字すら奪い取られ。

「パートナーを見つけられずに寂しい思いをしたのは俺も同じです。

 辛かった思い出を忘れるまで俺を利用してくれても構わないから、チャンスをくれませんか?」

「……チャ、ンス?」

 ドストライクな容貌を持つ奴に冷たくしきれないのはメンクイな俺の弱点だ。

 そんな奴に都合のいい条件を出されてついその気になるとか、本当に自分は馬鹿だと思う。

「ええ、お互いを知るためのチャンスを。せっかくベッドもあることですし、―――では早速」

 しかも期待と欲望から微かに頷いた瞬間を雪名は見逃さなかった。

 つるりと裸に剥かれると自分のベッドに押し倒される。

 若々しく逞しい体に圧し掛かられ、素肌の触れ合う感触が気持ちよくてすぐに流された。

 衣擦れと二人分の息音に部屋の密度が高まる。微かな喘ぎがだんだん大きく喉の奥を抜けていく。




「……ぅ、ぁっ、ぁ、雪名、あーっ、」

「木佐さんてどこもかしこもやらしくて色っぽい。 ―――堪らない」

 ……このっ、やらしーのはおまえの方だろーが、

 そう詰ってやりたいのに。

 下肢でひとつになったまま、欲に濡れた声で囁かれ思わず首を反らした。

 首筋に鼻先を押しつけられ脈動にチクリと痛みが混じった刹那、まな裏に金色の光が見えた。

「……はっあううぅ……」

 感じる。

 抱かれながらいま確かに血を啜りあげられている。

 経験したことのない凶暴な快楽に翻弄され、霞む目が縋るように伸ばした指先を掴みとられた。

 互いの指を交互にしっかりと繋ぎ直される。

「木佐さん、……可愛い、

―――もう絶対木佐さんと、……離れたくないです」

 深すぎる快感に息もたえだえになりながら、雪名、ゆきなと応えた声がちゃんとした音になったかどうかなんて、

 極めると共に意識を手放した俺には知る由もなかった。




 翌日、目覚めたベッドには俺ひとり。

 もそもそと起きだしてあちこちのドアを開けてみる。

「離れたくないとか言った癖して、いねーじゃねーかアイツ」

 トイレまで確かめたついでに用足しした俺は、ぶつくさと零しながら手を洗う。

 なんとなく顔をあげて鏡を見て息を呑んだ。

 うお、お肌つるっつる……!

 十代の頃の瑞々しさを取り戻したように輝いて見える。

「つ、つまりは……アレから不老不死エキスを摂取した、つうことなのか?」

 ハハハと虚しく笑ったあと、気になっていた首筋を恐る恐る鏡に近づけてみる。

 映し出された鏡面にはバラ色のキスマークがぽつんと見えるだけ。でもそれだけで、

 やっぱあれはハロウィンの夢じゃーなかったんだな……、そう認識させるには十分だ。




 やがて玄関ドアが開く音がして、俄かに部屋の中が騒がしくなる。

 「あ、木佐さん発見!」

 ドアの陰から現れた笑顔の雪名はこの上なく幸せそうで。

 こうなりゃ、とことん付き合ってやろうじゃないかなんて。うっかり決心させたのだった。









 Replica Rose カヤノ



カヤノさんからいただきました!
ゆききさ〜ゆききさ〜!
自分がゆききさをあまりうまく書けないからすごく嬉しいです!
ヴァンパイアな雪名とか、萌えすぎて鼻血出ます。
貧血になってしまう……!
お肌を気にする木佐さんがかわいくて堪らんです。
ツルツルになって良かったね!

カヤノさん、素敵なお話をありがとうございました!

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