ヴァリアーライフ
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………気持ち悪くなってきた。
建物の中に入ってから結構時間が経っていると思うんだけど、今だにベルフェゴールは空き部屋を探してさまよっている。
その間僕は頭を下にしてぶらーんとなっているわけで。
頭に血が上ってそろそろ本当にヤバいというかお腹も痛い。どうすればいいんだろう。
「あら、ベルちゃんじゃない」
と、聞こえてきた男の人の声。明らかに声の低さは男の人なんだけど、口調がおかしいのはつっこまない方がいいのだろうか。
「ルッスじゃん。あ、この近くの空き部屋どっか知らね?」
ベルフェゴールにそう問われたルッスという人は暫く考えてから、
「この階の奥の方は大体空いてるんじゃないかしら。この頃やけに静かだもの」
結構アバウトな答えをくれた。
「そ。さんきゅ」
軽くお礼を言ってから、僕を担ぎ直してまた歩き出そうとするベルフェゴール。
「ところでその子は何かしら。もしかして、スクアーロが連れてくるっていってた子?」
後ろからそう言っているのが聞こえたが、
「んー、王子あんま知らね。マーモンに運べって押しつけられただけだし?」
立ち止まらず適当にあしらった。
ルッスという人もそれ以上何か言ってくることはなかったので、そこまで気に留めていなかったんだろう。
………〈スクアーロが連れてくるって言ってた子〉。何か随分とけったいなレッテル貼られてるような気がする。
――カチャ
どうしたもんかと悩んでいると、ドアを開ける音。
「本当に空いてた。ここでいい、やっ」
いきなりぐりんと頭が上がって、横腹を掴まれたと思ったらあっという間に(多分)ベットに背中から着地していた。
『っ』
そしていきなりの予期せぬ衝撃に、舌を思いっ切り噛んでしまった。い、痛―――って。
『「あ」』
おぁう、やば。
思わず声出しちゃったよ。
「………お前、何時から起きてた?」
その声はしっかりとベルフェゴールの耳にも聞こえていたらしく、枕元に立ってにんまりとチェシャ猫のような笑みを浮かべて僕を見下ろす。
あれ、なんか凄く怒ってる気がするんだけど。
『い、今起きました』
精一杯笑顔を浮かべて苦しみ紛れにそう言えば、
――グサッ
間髪入れず顔の真横にナイフが突き刺さった。一体何処から出してきたんだ。
「ダウト」
『くふ、危ないじゃないですか……………正解ですけど』
最後の最後に小さく呟くと、前髪に遮られて見えないはずの目がぎらりと光った気がした。
「………王子こき使うとかマジ有り得ねーんだけど。その目ん玉くりぬいてやろうか?」
え………え?何でマウントポジション取ってるのかな。何で本当にナイフ構えてるのかな。
『ちょ、冗談ですよね……?』
冗談はその髪型だけにしといて欲しい。
逃げようにも、上に乗っかられているから身動きすらろくに出来ないし。
こんないたいけな少女を………
「しししっ、冗談なわけねーじゃん。俺殺し屋だぜ?」
言いながら真っ直ぐ振り上げられたナイフの切っ先は、僕の目に向けられていた。
はてさてどうしますか。