ヴァリアーライフ
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「ちょうどいい所に通りかかってくれたからね」
「ゔぉ!?」
いきなり鮮明な音となって耳に入ってきたその声に、少し体が跳ねる。
『あの』
その声の出所を探す前に横からアランの困惑気味な声が聞こえたので、そちらへ視線を移す。するといつの間にかそいつの膝の上にマーモンが座っていた。
「初めまして、こんばんは」
『……初めまして。貴方誰ですか』
「マーモン。君の名前は?」
なんて、普通に話し始めている二人。
おかげで車を止めたのはお前なのかということは聞きそびれてしまったけど、まぁ、わざわざ聞かなくても分かる。
日頃からマーモンが人目など全く構わずに持ち前の超能力を乱用しているのは知ってる。
「お疲れ様ーセンパイ。そっち詰めてくんね?」
と、こちらは普通にドアを開けて中に顔を覗かせたベルことベルフェゴール。
そういえば、今日は二人が同じ任務に行っていた事を思い出す。
マーモンは最後まで報酬が半分になるからと嫌がっていたが、暇だ暇だと喚くベルには適わず、結局二人で任務を遂行することになっていた。
全く、この我が儘王子にも困ったものだ。
「後ろはもう二人座ってるから、前に座れぇ」
はぁとため息をつきながら言うと、はぁ?と不可解そうな声が返ってきた。
「マーモンなら俺が抱っこ………あ?誰、そいつ」
身を乗り出して車内を覗き込んだベルは、アランの事を見て口をへの字にした。
『貴方こそ誰ですか』
アランはといえば、何故かは知らないが膝の上にいたマーモンをしっかりと両腕に抱いている。
それを確認したベルの表情がさらに怪訝になった。
「オレの事知らないワケ?っつーか何でそんな馴々しくマーモンに触ってんの?」
んな事どうでも――
『それはすみませんね。貴方の許可がいるとは知らなかったので』
どうでも………
「いらないに決まってるでしょ、そんな許可。僕はベルの所有物じゃないんだから」
…………。
『ベル?もしかしてベルフェ「あぁもうお前らうるせぇぞぉ!ベル、お前がさっさと座んねぇと何時まで経っても車が出れないだろうが!!」…………』
アランは何か言いかけていた口を閉じて、ベルは何で自分が怒鳴られなければいけないのかと言いたげな不機嫌そうな顔で車のドアを力任せに閉める。
そして直ぐに助手席のドアが開いてベルが乗り込んできた。
「………出せ」
ため息ながらに言って顔を上げると、バックミラー越しに運転手の哀れむような目が見えた。
「はい」
こうして何故か無駄に疲れた俺と完全に拗ねた我が儘王子と空気を読んで黙りこくる少女といつの間にか寝ている赤ん坊を乗せた車は、ヴァリアー邸に向かうのだった。
しかし。何をしたのか何がいいのか分からないが、どうやらアランはマーモンに気に入られてしまったらしい。
そしてアランとベルの間柄は今のを見た限りお世辞にも良いとは言い難い。
だとすれば、もしアランが守護者補佐にでもなってしまったら。
………俺はこれからもこんな苦労をしなくてはならないのか。
先の事を考えると憂鬱にしかなれなかった。