ヴァリアーライフ

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――ジリリリリリリ

『………ん』

くぐもった時計のベルに目が覚める。
最初はいつも通り眠気に負けて無視していたけれど、鳴り止まないどころか徐々に大きくなっていく耳障りな音。
我慢できず、目を開けないまま手探りで目覚まし時計を探す。
確かいつも通りサイドテーブルの――

『………無い』

伸ばした腕が空を切る。そこで目を開けてやっと気付いたというか、思い出した。
ここは、ヴァリアーだ。

『そっか、そういえばそうだった』

小さく呟いてから、むくりと体を起こす。
どうやら音源である目覚まし時計は旅行鞄の中のようだ。
目覚まし時計なんて、入れてたっけ。

『めんどくさ………』

ぼやきながらベットをずるずると下りて、鞄を開ける。
途端更に大きくなったベルの音に顔をしかめて、洋服の下敷きになっていた時計を引っ張り出した。
私のじゃない。ということはクロカミさんのだろうか。わざわざ入れてくれたのか、入れっぱなしで忘れていたのか。
かちりとボタンを押すと、しんと静まり返る部屋。

『んー…………』

取り敢えず伸びをして時計の文字盤を確認しようとしたら、

――バンッ

「誰かいるのか?」

部屋の扉がいきなり勢い良く開いた。その向こうにいた男と目が合う。

『え』

そいつは目覚まし時計を握り締めたまま固まる僕をぎらりと睨み付けて、

「侵入者か?随分と小さい子供だな」

得物を構えた。

『…………え』

何でそうなる。

『待っ』

制止をかける暇もなく、ガキンと金属同士がぶつかり合う嫌な音。

「ちっ」

頭上から聞こえた舌打ちに、舌打ちしたのはこっちの方だと言いたくなる。
目覚まし時計に得物の刃先が食い込んだから、運良く寸でのところでとめられたけど…………

――みし

きっと長くは持たないだろう。

『こっちは寝起きだっていうのに………』

なんて過酷な運動を迫ってくるんだ。

――みし

どうしよう。取り敢えず安全な場所に移動して、マーモンさんかベルフェゴールかスクアーロを探すしかない。

――ばきゃっ

「!?」

真っ二つになった時計の中から溢れ出てくる白い煙。私が作り出した幻覚だ。
相手が怯んだ隙に、自分の姿をかき消す。勿論それも、幻術。

「くそ、術師か!」

『ご名答。まぁ、分かった所で何も出来ないでしょうけど』

得物を構えて周囲に目を凝らす隊員の横をすり抜けて、開けっ放しの扉の近くまで来る。
最後、腹いせとばかりにその背中を蹴飛ばしてから部屋を飛び出た。

「何処行きやがった!!」

後ろから怒鳴り声が聞こえてきたけど、知ったこっちゃない。

『さて……と、何処にいきましょうかね』

実戦が駄目?
相手が大人なら話は全く別なのです。
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