ヴァリアーライフ
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窓の外を流れていく景色をぼんやりと見つめながら、今日の昼あいつに言われたことを思い出してみる。
〈実力はあるし、何より良い子だよ。それに以外と一途だからね。性格は結構捻くれてるんだけど〉
黒神がそこまで評価するのも珍しいと思ったが、実際に会ってみると正直ただの買い被りなんじゃないかと思った。
『……………』
視線を車内に移すと嫌でも目に入るその緑髪の少女は、自分と反対側の扉に体を預けて無防備に目を瞑っている。
恐らくは寝ているであろう。
しかしこの少女、どう見たって歳はベルと同じかそれ以下だ。
それが―――
『…………なに見てるんですか。ロリコン』
ぶん殴りたい衝動に駆られたが、相手は子供だと自分に言い聞かせて我慢する。
「てめぇ……俺はガキだからって甘やかすつもりはねぇぞ」
『はっ、そんな事頼んでもいませんね。というか、そんなにガン見されると寝られないです気持ち悪い』
思いっ切り顔をしかめてこちらを睨んでいる少女、名前は確かアランと言ったか。
黒神といた時のは照れ隠しに見えないこともなかったが、今はあからさまに嫌悪感を露わにしている。
「じゃぁ寝んな。それにてめぇには聞いておかなきゃいけねぇ事がある」
俺が言うと、アランは俺から体ごと顔を背けて窓ガラスと睨めっこを始めた。
そこに反射しているその不機嫌極まりないという顔を見て、何がそんなに気に食わないのかと少し不思議になる。
『………聞くことがあるんなら早く言ったらどうです?本当に寝ますよ』
その言葉にまたキレそうになるが、今回もなんとか我慢する。
そして本当に目を閉じて寝ようとし始めているので、舌打ちをして問い掛けた。
「黒神とは何処で知り合った」
暫くの沈黙の後、アランはちらりと視線だけをこちらに寄越して随分と癖のある笑いを漏らした。
『くふふ。何ですかその私情たっぷりな質問』
「いいから、早く答えろ」
また外に視線を戻したアランをガラス越しに睨み付けると、怖い怖い、と笑いながら言った。
『道端で倒れているところを、クロカミさんに拾って貰ったんです。ありがちでしょう?』
俺が記憶している限り、黒神はそこらへんにいる〈何の変哲もない〉子供を善意で拾ってやるような奴ではない。
例え瀕死で路地に転がっていようがなんだろうが。だとすれば。
「お前、何か隠してるんじゃ………「あ、わっ!?」あぁ?」
運転席からいきなり悲鳴が上がったかと思うと、
――キュギギッ
「『っ!?』」
何の前触れもなく車が急停車した。
喋りかけていた俺は危うく舌を噛みそうになり、アランは勢い余って前の座席の背もたれに頭を強打している。
「お゛いっ、どうしたぁ!?」
運転席に身を乗り出して運転手を怒鳴りつけると、そいつは青ざめた顔で車の前方を見ている。
しかしそこには何もいない。
「す、すみません!車が勝手に………!!」
勝手に?そんなわけあるはずが
《そう、勝手にじゃないよ。僕が止めたのさ》
頭に直接響いてくるような、聞き慣れた子供特有の甲高い声。
『…………おやおやこれは』
いつの間にか俺の下から頭を出して運転席を覗き込んでいたアランが、興味深そうに呟いた。