ヴァリアーライフ

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「日本!!?」

僕の言葉に、ソファーに寝転がっていたクロカミさんがすっ頓狂な声をあげて起き上がる。
その拍子に持っていたカップから琥珀色の液体が零れた。熱そう。

「あっつつつ!その、えっ?君が行くの?」

『何してるんですかほら服にも零してます。違いますよ、僕の知り合いです。ただ前科持ちというか現在進行形で指名手配されているので、確実にジャッポーネに行ける方法でないといけないんです』

言いながらテーブルの上に置いてあったティッシュ箱を投げる。

「あ、ありがと。ふーん。まぁ勿論出来るけど高くつく………」

カップを持っている反対の手でティッシュで服に零した液体を拭きながらそこまで言って、クロカミさんは急に何かを思い出したようにぽんと手を打った。

「そっか!よっしその話引き受けたむしろ大歓迎だ。そのかわり僕からの頼み事も一つっつつあっつ!」

また零した。
というか、基本極度の面倒臭がり屋のクロカミさんが大歓迎とか怖い。
頼み事とか嫌な予感しかしないんだけど………仕方無いか。

『お願いします。ついでに出来るだけ早くしてもらいたいのですが』

僕が言うとクロカミさんは頷いてソファーから立ち上がり、部屋の隅にあるパソコンの前に移動した。
機動済みだったのか、マウスを動かすと黒い液晶画面が明るくなった。
そのすぐ後キーを叩く軽快な音が続く。

「そーいえばさー、アラン君の知り合いって誰?ついでにその肩に乗っかってる毛玉は何?」

クロカミさんは画面に向かったまま話し始めた。
そういうのは普通、聞かないものなんじゃないの。というかやっぱり毛玉に見えるのか。

『別に、貴方には関係のないことだと思いますけど。ただ、この黄色い毛玉はその人から貰った鳥です』

暇なので、鳥を肩から手の平に移してつんつんと指でつついてみる。全然動かないんだけど。
名前くらいつけてあげようかな。鳥っていうのも何だか可哀想だし。

「つれないなぁ。というか、裏社会で指名手配されているような奴が今日本に行くの、日本までのルートが抑えられたとしても、その先が危ないんだけど大丈夫かな?」
『どうしてです?』

危ないって、ジャッポーネの治安はかなり良いんじゃなかったっけ。

「なんせこの前まで5人いたボンゴレ10代目候補者が二人まで減って、その内の一人が日本にいるからね。そいつを狙う奴等を抹殺する為に常にボンゴレの配下がうようよいると思うんだけど」

そうなのか。だけどそんなことに骸が気付いていないハズがない……と思う。
ということはそれも承知の上でなんだろう、多分。

『大丈夫だと思いますよ。それに実力だけはありますし、そこらへんの奴等には到底やられません』

断言する僕に、クロカミさんはふぅんと興味なさげに言った。自分から聞いてきたくせにムカつくな。

「アラン君のお墨付きなら大丈夫かなー」

コピー機が動き出して、一枚のプリントが出てきた。

「はい、これで大丈夫。報酬内容は後から伝えるから」
『随分早いですね。本当にこれで大丈夫なんですか』
「何、まさか疑ってるの?」

クロカミさんがにやりと笑う。

『確かに貴方は優秀な情報屋でもあるから大丈夫だとは思いますが、こちらとしてはそれだけ重大な事なので』

一応、と呟くように続けて手元へと視線を移す。

「あのさ」

そしてまたソファーにぽすんと座ったクロカミさんが困ったような顔をして言った。

『何ですか?』

僕は紙を折り畳みながらそれに応える。
書き直すの面倒臭いからこのまま持っていってもらおう。

「変な事に巻き込まれたら遠慮なく俺に言ってよ?出来るだけ力になるし」

小さく折り畳んだ紙を黄色い鳥の前に差し出すと、黄色い鳥はそれをくちばしでぱくんと咥えた。

『残念ながら、私にとってはここに住んでいることですら〈変な事〉です。なので貴方に相談するようなことはありません』

否、どんなことがあったってそんなことはしない。

「はは、やっぱり?」

一変して朗らかに笑うクロカミさんをちらりと見て、僕は立ち上がった。

『ではまた後ほど。ありがとうございました』

とりあえずこいつを飛ばしちゃおう。
手のひらに乗っかっている鳥をもう一度肩に乗せてから、部屋を出た。
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