ヴァリアーライフ

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「僕、ここで何をしてるのかな?あー……いや、何をしていたのかな?」

俺が最初にそう話し掛けた子供は、冷たいであろう石畳の地面にぺたんと座り込み膝に頭を埋めていた。
狭い路地には月明りも差し込まず、じっとりと重たい空気が漂っている。

『………貴方のその質問に答える必要はありません』

若干くぐもっては聞こえたが、まだ幼く高い声には全く不似合いな対応と言葉遣い。
それといい先程から感じる異質な雰囲気といい、その辺で無邪気に走り回っている子供達とは違う気がする。
何処が、と聞かれるとなんとも言えないのだが。

「あはは、君の言う事は最もだね。でも流石にこんな夜遅く、子供が一人で路地に座り込んでいるのは放っておけないなぁ。ここ、俺の家の横だし」

『私が何時何処にいようと貴方には関係ないでしょう?早く行って下さい』

「行ってって言われても、なぁ…………なんか迷子の子猫みたいで放っておけな『黙れ』へ?」

突然高圧的に言われて間抜けな声が出た。その子ががばっと頭を上げる。
柔らかそうな髪がさらりと揺れる。薄い暗闇の中に紅い光が浮かんだ。

『――――っ………』





――トゥルルルルルル トゥルルルルルル

「ほわぇっ!?」

突然耳に入ってきた鮮明な音に、奇声が出た。

「なっ………んだ、ケータイか。しかも電話だし」

確かアラン君が部屋を出て行った後、食べ終わった食器をキッチンまで運んで………テレビを見ようとしてソファーに座ったらそのまま寝ちゃったのか。
電話がかかってきたから良かったものの、危うくいつものように夕方まで爆睡してしまうところだった。
そんなことしてたらまたアラン君に怒られる。

まだ眠気が抜けない頭でぼんやりそんな事を考えながら電話をとった。

「もしも〈う゛おおぉぉぉい!!!〉………………」

反射でギュッと目を瞑ってケータイを耳から遠ざけた。
反応が遅れたせいで完全に耳と頭がやられて、耳鳴りまでしている。
それでも構わず、というか気付かずに電話の相手はもはや叫んでいるのではないかという声量で話し続ける。
それはもう、精一杯腕を伸ばしてケータイを耳から遠ざけても問題無く聞こえる程だ。

「あの〈久し振りだなぁ黒神!今日はてめぇに頼み事があって連絡した〉ちょいと、聞こえてます?聞いてます?というか聞く気ありますかーっ?」

こちらも負けじと声を張り上げる。
しかしそれでも先方が気付く気配は全くしない。
本当に昔から人の話を聞かない奴だなこいつは!

〈今こっちは至急優秀な部下が必要な状況だぁ。つーわけで明日までに最低でも一人用意しときやが「ってお前、それが人に頼み事する時の態度か!しかもそれだけじゃよく意味分かんないし!そしてもっと声を小さくしろ!!」………お゙、おう〉

思い切り叫んだせいで息切れした。そう考えるとこいつの肺活量って半端ないと思う。
声が聞こえなくなったのでケータイを耳に近付けてみると、普通の音量で声が聞こえた。

〈すまねぇな、こっちも急いでるもんだからよ。なんせあいつらが………〉

その後もぶつぶつと続く愚痴。
こいつはザンザスがいなくなった今もまだ誰かにこき使われているのか、と。つくづく可哀想というか苦労人というか。
はぁ、と溜め息をついてから気を取り直して再度彼に話し掛ける。

「……それで、なんで今ヴァリアーがそんな状況なの。確かザンザスがいなくなってからはほとんど活動してないはずじゃなかった?」

8年前にボンゴレ9代目に反乱起こしたもののそれが失敗に終わり、今は重大な監視下に置かれている……とかなんとか聞いた気がする。
それから今に至るまでの8年間、ヴァリアーは全く活躍していないはず。

〈いや、あいつなら戻って来た〉

「…………え?それは、どういうこと」

実は、いつまで経っても戻ってこないので本当はもう殺されているんじゃないかなんて思ってたりしたんだけど。

「その話は詳しく聞きたいなぁ………そうだ、久し振りにお昼でも一緒に食べない?よしそうしよう。君が俺にとっていい情報をくれたら、その頼み事っていうのも格安で聞いてあげるよ。場所は学生時代にいっつも使ってたあそこで。んじゃ」

〈は!?お゛い、ちょっと待っ――〉

――ブチッ ツー……ツー……

切る直前に何か言ってたような。気のせいだね、うん。
そんで、新しい隊員がいるから用意してくれとか言ってたけど………と、考えて気付く。
今僕の手駒の中に、ヴァリアーへいかせられるような奴は一人しかいない。

でも困った。あの子、簡単に僕の言うこと聞いてくれそうにないもんな。
これはあの子……アラン君にとってもいい経験にはなると思うんだけど。

悩むなぁ。
どうしようかなぁ。
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