ヴァリアーライフ
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『んー………あ』
目を擦りながら起き上がる。窓ガラス越しに差し込んでくる朝日が眩しい。
カーテンが開いているということは、同居人の彼が一足先に起床しているということだろう。
そういえば今日の朝食を作る当番は彼だったなと思い出した。
耳を澄ますと、隣の部屋からとんとんとリズミカルな包丁の音が聞こえてくる。
一度伸びをして窓から見える景色をぼーっと眺めていると、特に理由は無かったが日の光があたる街の大通りを歩きたいと思った。
簡単に頭の中で一日のスケジュールを立てる。
何処か買い物に行こうか。
今日の夕食の材料をスーパーに買いに行って。それから本屋にも行きたい。
昨日の依頼は結構報酬が弾んだし久し振りに新しい服でも買おうかな。服屋に行くんだとしたら、スーパーの後だと荷物が邪魔だから先に行こう。
お気に入りの服を着ていこうか。
それとも、万が一汚れがついてしまってもあまり目立たないような服?
今日はパイナップルに会わなきゃいけないから、もしかしたら血腥い場面もあるかも、
「…………パイナップル?」
ちょっと待った。
パイナップルに、会わなきゃいけない?いや待て落ち着くんだ。
何故パイナップル。確かにパイナップルは嫌いじゃないしこの頃は食べてなかったけど。無意識に考えてしまうなんて重症かもしれない。パイナップル症候群の。
一瞬で頭の中がパイナップルだらけになってしまったことが妙に悲しくて、もう一度ベットに寝転んだ。
出来ることならこのまま二度寝をしたい。さっきまで出掛けたいなんて思ってたのが嘘のようだ。
パイナップル怖い。
そのまま意識がまどろみ始めたころ、サイドテーブルの上に放ってあったケータイから軽快な着信音が流れ出した。
手に取ってサブディスプレイを確認すると黒神と表示されている。同居人の名前だ。
隣の部屋にいるはずなのに、と疑問に思いながらも携帯の通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「ぐっどもーにんぐアラン。朝ご飯もうすぐ出来るよー」
朝ご飯。
その言葉を聞いた途端にお腹がすいてしまった。お腹がすいていることに気がついたの方が正しいかもしれない。だから仕方なくまたベットから起き上がった。
「おはよう黒神。ところで何で電話なの。直接起こしに来てくれればいいのに」
「この前部屋に入ったら着替えの最中で、すっごく怒ったくせに。もう忘れたの」
だから、ケータイ使った。
褒めてくれといわんばかりの声音に、相変わらず子供っぽいなと笑いを堪えたが、あることに気付いた。
「そんなこともあったかもね。でも、カーテンを開けに一回部屋に入って来てるなら変わらないでしょう」
言いながら部屋の扉を開ける。
扉の向こうはすぐリビングになっていて、朝食の味噌汁の香りがふんわり漂っていた。
「え?カーテンなんて開けてないよ。昨日閉め忘れでもしたんじゃない。不用心だなぁ、しっかりしてよね」
ケータイからの声と肉声が重なって聞こえた。
閉め忘れ、じゃないと思うんだけど。
でもわざわざ反論するのも面倒臭くて、まぁいいかと思いながら通話を切った。
「もうちょっと待っててね」
ケータイを片手に、おたまを片手にキッチンに立っている黒神さんがそう言ったので、素直に食卓についた。
『――というわけで、人間はこのレム睡眠と睡眠を繰り返し、浅い眠りであるレム睡眠の時に夢を見るわけです』
ふと耳に入った、朝のニュース番組。どんな話から睡眠の話になったのかはよく分からないけど、専門家がそう説明しているのがテレビに映っていた。
私は昨日はどんな夢を見ていたっけか。
あぁ、なんだか重要な事を忘れてしまっている気がする。