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□金魚鉢@
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「あっ」


危うく道でこけかけた彼女の腕を引っ張り支える。
ありがとうと呟き染まる桃色を見ながら、
よく何も無い所でこけれるなとある意味感心する。

「なんで、今日はいつにも増して、そんなうっかりなんだ。」

同じように彼女の腕を掴んだまま彼が呟く。
怒っているのではなく心配のあまりだろうが・・・・あんなに眉間にしわ寄せたら千鶴が恐がるじゃないか。

千鶴は真っ赤な顔して、きっと彼を睨むと


「い、いつもに増しては余計っ!」

頬をぷくりと膨らました。あらら、すねちゃった。


「でも確かに朝からぼんやりしてるね。何かあったの?」

そう尋ねれば、千鶴はこちらに瞳を向けてくる。
角度が変わり、瞳の色が透き通る様にどきりと胸が高鳴った。


ぽつりと桜の唇から言葉が零れた。



「あのね、変な夢見ちゃって・・・・・」

「なるほど!怖い夢見て寝れなくなっちゃったのか」


おどけてからかえば、千鶴はほっぺをさっきの三倍膨らまし
「はじめちゃんっ!!!」とぺしりと背中を叩いてきた。


「からかうな、はじめ。して、どんな夢なんだ。」

千鶴は、んと話の続きを紡ぎ始めた。



「男の人の夢を見るの」




風が僕たちの間を強く吹き抜けた。



うるさく鳴いていた蝉の声が耳に遠く。



「その人がずっと私を呼ぶの。




そういえば、その人・・・・・・」



“はじめちゃんに似てたかも”



びくりと隣の彼の肩が跳ねあがるのを見逃さず



「そう」



僕はゆっくりと唇を歪め、千鶴に優しく微笑みかけた。











end
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