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□金魚鉢@
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ばさりと新聞を置いた机の向かいに見えたのは、
コップからこぼれ落ちそうになるカフェオレ。




「千鶴、コップ」

「・・・ん・・・」

「・・・・・・・あぶないよ」



危なっかしい指からコップをひょいっと奪いとる。

彼女は眠たげにしばしばまばたきを繰り返しながら、
テーブルに置かれたカフェオレが波をうつのをぼんやりと眺めている。

どうぞお姫様と言いながら、マーマレードをたっぷり塗ったトーストを差し出す。


もぐもぐと頬を一心に動かす様はまさに小動物。
ああっ、思いっきり抱きしめてふにふにしたい。
という衝動をごまかし、コーヒーをすする。





「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「あのさ・・・」
「・・・・ふぁい?」
「今、千鶴が食ってんのは指。もうトーストなくなってるから」

千鶴は口から指を離すと


「・・う・・・いたい。」

言われた途端に痛みに気づいたのか、眉を下げた。

思わず漏れる苦笑。

「は、はじめちゃん、笑わないで。」

「千鶴がおかしなことするからだよ。」

うっと言葉を飲み込み真っ赤な顔してこちらを見てくる姿が、
あんまり可愛いから・・・またからかいたくなっちゃうなと言う言葉を飲み込んで、ふふふっと微笑んだ。



かたん、と音がした方を振り返れば、隣に座っていた人が立ち上がっていた。

「千鶴、コーヒーおかわりあるか?」
「うん!今日の薄くなかった?」
「丁度良いぞ。」

よかったっとにっこり微笑んで、
ぱっと弾かれたように立ち上がり揺れるポニーテールを横目に、
無言のまま食べかけのサラダにフォークをぶすりと刺した。



この街に生まれて16年。僕達はいつも一緒にいた。

沖田家と雪村家と斎藤家は
家が横並びの近所ということもあり、家族ぐるみの付き合いも長い。

先に仕事に出る親に残された子どもたちだけで、
たまにこうして朝ご飯を一緒に食べることもしばしば。

いつも千鶴の隣に僕とそうじがいるのは当たり前。
大切な居場所だった。


「戸締まりよーし。忘れものなーし。」


「千鶴、携帯は持ったのか?」


「・・・・あ・・・」

数分後、再び扉の向こうから現れたのは、恥ずかしそうに伏せられた瞳。


「ほら、行くよ。」

笑って手を差し出せば、ぱあっと咲いた笑顔。たまらなく可愛い。




繋がれた小さくてやわらかな手のぬくもり。



彼女の反対側に並んだそう君はそっと彼女の頭をなでた。
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