遠く懐かしい

□お兄さんは心配症
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彼女は庭のやわらかな日差しの中にいた。




「千鶴」

そう呼べばこちらに向けられた

彼女の笑顔がそのままその光の中へとけていってしまうんじゃないかなんて

錯覚を抱いたままあまりの眩しさに思わず瞳を細めた。






「原田さん」


冬独特のしんと張り詰めた空気に
春のひだまりのような優しい声が震える。



名前を呼ばれただけなのに、こんなにも心弾ませる

自身の心の単純さに思わず苦笑した。


そんな俺を不思議そうに覗きこむ
光に透ける飴色の瞳に優しく微笑みかけると

自分の手にすっぽりおさまる小さな頭をなでた。






指の先から伝わるこの小さなぬくもりを

ずっと感じていたいと願ったのはいつからだったろうか


屯所預かりの身であるとはわかっていながらも
心は緩やかに広がり
激しく流れだす。



己の指に気持ち良さそうに身を委ねる
彼女の微笑みを守ることが
自分の中で何に置いて譲れないものへとなった。




この新撰組にひっそり咲いた
小さな花の蕾のように繊細な彼女の優しすぎる心を
そっと包みあげるように見守ってきた。

同じ想いを抱えるのはけして己だけではない。

彼女のあたたかな言葉が心が笑顔が屯所の中を照らす。

その存在はもう新撰組にとって欠くことはできないもの。




そんな彼女の表情がここ最近ばかり優れない。


やんわりと理由を尋ねても、困ったように小さく首を振るだけ

新撰組にかかれば、どんな者でも口を割ると言われるほど、交渉!!!拷問!!駆け引きならお手のもの!!!である彼らだが


こればっかりは、ほとほと困り果てていた。
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