忍たま 短編

□騙せぬもの
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どーも皆さん、私は鉢屋三郎。

今日は少し面白い事をしてみようかと思う。

どんなことかって?

もちろん、私が得意な変装を使ってとある子を騙してみるんだよ。

とある子って誰かって?

まぁ、見てろって。

ほら、噂をすれば何とやら…。


「しほ〜ろっぽ〜はっぽぉ〜!しゅ〜りけんっ!」


あーあー、のん気に歌なんか歌ってるよ。

忍者としてあるまじき行為だな。

さすが“アホのは組”と言われる一年は組の編入生だ。

そう、私が狙ってたのは最近一年は組に編入してきた雪下桃。

女子みたいな顔つきしてて、極度の運動音痴と言われている奴だ。

で、そんな桃の事を変装で騙してみたいと思う。

さぁて、どんな反応を見せてくれるんだ?


「うちか〜え〜されたよ〜…ってわわっ!!」

“ずしゃあっ!”


…見事に転んだ。

言ってるそばからこれだ…。

じゃ、さっそくやろうか。


「…ったたた!」

「桃、大丈夫か!?」

「ふぇ…?あ、土井先生!?」


土井先生の姿と声で話しかけると、桃は上半身だけ起こして驚いた顔で私を見上げた。


「ずいぶんと派手に転んだな!ケガはしてないか?」

「はいです、大丈夫ですよ」


桃は立ち上がって砂をはらうと“へへっ”と困ったように笑った。

よしよし、さすが私。

変装は気づかれてないみたいだぞ。


「本当に大丈夫か?ひざをずいぶんと擦ったみたいだが…」

「立てるので平気です。ちょっとヒリヒリするですけど」

「立つのと歩くのとでは違うだろう?それに、ヒリヒリするってやっぱり擦ったんじゃないか。どれ…」


本当に制服のひざの部分がこすれていて土だらけだ。

試しに触ってみたら“っつあっ!!”と小さく悲鳴を上げて体をこわばらせる桃。

何だよ、痛いんじゃないか。


「やっぱりケガしてるじゃないか。保健室まで送ってやるから背中に乗りなさい」

「うぅ…は、はいですぅ…」


うわっ!なんて素直さだよ!

私だったら絶対に断るのに…。

というか、普通おんぶなんてしないっての。

全く…騙してからかおうとしたのに、変な場面に出くわしたから本気で心配するはめになったじゃないか。













“すっ…!”

「あれ?誰もいない…」


こんな時に限って誰もいないなんて…あ、逆に誰もいない方がいいのか。

仕方ない、私がこのまま手当てしてやるか。


「ほら、ひざを出してみなさい」

「よいしょ…」


私が降ろしてやってそう言うと、桃は実に素直に足袋を脱いで袴のすそをたくしあげた。

あちゃー…だいぶ擦りむけてる。


「こんなになってるじゃないか。ちょっと待ってなさい」


桃に背を向けて、薬棚をあさる。

伊作先輩に変装することもあるから、保健室の中は大体把握しているんだ。

たしか、ここら辺に消毒薬とかが…っと!あったあった。

振り返って桃を見ると、眉間にしわをよせて赤くなっている自分のひざを見つめていた。


「ほら、消毒するからな。動くなよー?…」

「…ひぅっ」


小さく息を飲んだものの、声をあげることはしない。

我慢強さも持ってるのか。


「…ほら、終わったぞ。よく頑張ったな」

「えへへ…!」


ばんそうこうを貼ってやってから頭をなでてやると、安心したように肩の力を抜いて笑った。


「ありがとうございます










鉢屋先輩!」














「どういたしまし…て…?」


あれ?

今桃、私のことを何て呼んだ?


「あ、やっぱり鉢屋先輩でしたか」

「なっ…!!」


私の変装が見破られたっ…!?


「桃、お前、いつから気付いて…!」

「いつってわけじゃないですよ。ただなんとなく、そうなんじゃないかなぁって」


袴を下ろして足袋をはきながら話す桃に、私は驚きを隠せなかった。


「でも、始めは本当に土井先生だと思いましたよ。鉢屋先輩はやっぱり変装が上手なのですね」

「……」


負けた。

完全にそう思った私は、しぶしぶ変装をといていつもの雷蔵の姿に戻った。

しかしなぜだ?

なぜこいつは私だと分かったのだろう?


「なぁ、桃」

「はいです?」

「なんで私だと分かったんだ?」

「え?なんでって…」


不思議そうな顔で首をかしげる桃は、“ふにゃっ”と笑った。





「鉢屋先輩、だからです」





その言葉に、ひどく安心した。

それと同時に、胸が熱くなった。

この感覚、どこかで…。

あぁ、思い出した。

雷蔵と出会った時だ。

あいつと初めて出会った時も、こんな感じの気持ちになったんだったな。

……でも…。


「…鉢屋先輩?」

「ん?あぁ、なんでもないよ」


何かが違う。

雷蔵の時とは、明らかに違うなにかが桃にはある。

それが何かは分からないが、悪い気はしない。

…ま、もう少し様子を見ることにするか。

そう考えながら、私は桃の小さな頭をゆっくりとなでた。


*END*



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