忍たま 短編

□ぎゅっとしてハニー!
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雪がつもったある日の朝、三郎は自分の部屋から顔をのぞかせて“ぶるっ”と震えた。


「…さ、むぃ…!」

「ほら三郎、どいてよ!邪魔で通れないだろ?」

「ま、まって雷蔵…!それ以上戸を開けられたら寒くて死n」

“すぱんっ!”

「ぎゃああああっ!!北風が身にしみるぅぅうううっ!!」


雷蔵が容赦なく全開にした戸から入り込んできた冷たい空気に、三郎はあわてて毛布の中にもぐり込んだ。

雷蔵はあきれて“はぁ…”とため息をついた。


「三郎、いい加減寒いのに慣れなよ。そんなんじゃこの先しばらく過ごせないよ?」

「私は寒いの嫌いなのっ!!逆になんで雷蔵は平気なんだよっ!?おかしくないかっ!?」

「おほーっ!三郎、まだ布団から抜け出せねぇのかよ!」


ちょうどその時“ひょこっ”と戸から顔をのぞかせたのは、隣の部屋の竹谷。


「ほら、ハチだって平気じゃん」

「そいつは例外っ!!真冬の猛吹雪の中でも生きていけるぐらいじゃんっ!!」

「なんだそれっ!?俺、そんな恐ろしい体の構造してねぇよっ!!」

「例え話だって」

「でもまぁ、寒さに弱くはないな。どこぞの寒がりなやつと違ってさ!」

「くっ…!」


おもしろそうに見てくる竹谷を、三郎は“ギッ!”とにらんだ。


「とにかく、早く布団から出なよ!もし桃ちゃんが見たら、嫌われちゃうよ?」

「もし桃来たって、私は布団から出ないからなっ!」

「お、桃」

「え!?うそっ…!?」


竹谷の声に三郎があわてて布団から顔を出すと、雷蔵の後ろから“ひょこっ”と水色の頭が飛び出てきた。


「おはようございます先輩方!」

「おはよう桃ちゃn」

「桃ぉぉおおおっ!!」


ものすごい勢いで布団から飛び出してきて、桃に突進してきた三郎。

だが…





“ひょいっ”

“すかっ”

「え?」

「桃おはようっ!」

「竹谷先輩、おはようございます!」

“ざふっ!!”


ちょうどタイミング良く竹谷が桃を抱き上げたため、三郎は勢い余って中庭の雪の中へとダイブしてしまった。

「だああああああっ!!つつつつ冷たあああいっ!!」

「ふぇっ?鉢屋先輩?」

「あははははっ!!三郎ざまぁねぇな!」

「ハチ貴様ぁぁああっ…!!」

「三郎、自業自得だよ」


怒り狂う三郎に、雷蔵は呆れながらため息をついた。


「しっかし桃お前、だっこしやすいなぁ!」

「え?そうなのですか?」

「おう!それにすごくあったけぇし」


竹谷は桃を床に下ろすと“ぎゅうっ”と抱きしめた。


「「あああああああっ!!」」

「ふぇっ!?」

「な、なんだよっ!?」


叫び声を上げたのは、三郎だけではなく雷蔵もだった。


「ハチ、お前なにやってんだよっ!?」

「どさくさに紛れて、桃ちゃんを抱きしめるなんてっ!!流れで自分1人で独占しようとしてるでしょっ!?」

「(ギクッ!)ん、んなわけねぇよっ!!」

「あ!今“ギクッ!”てした!図星だね!」

「私を雪の中に落としておきながら…!!桃ーっ!!私も抱きしめてーっ!!」


と言いながら、竹谷が離れたすきをねらって三郎も“ぎゅうっ”と桃に抱きついた。


「「三郎ぉおおおおっ!!!」」

「お!ホントにあったかい!」

「は、鉢屋先輩っ!」

「ん?」


急に桃が腕の中で動いたので、何事かと三郎が腕をゆるめると、桃は困った顔で三郎を見上げた。











「鉢屋先輩、冷たいです」







“ピシリッ!!”










次の瞬間、三郎から何かがひび割れた音がして、彼はそのままうずくまってしょげてしまった。


「さ、三郎、そんなに落ち込むなって!」

「冷たいって言われた…そりゃあ寒いときに冷たい奴に抱きしめられたってあったかくはないけどさ…ブツブツ…」

「はは…」

「あ、あの…!普段の鉢屋先輩はあったかいので好きですよ!?」

“ぴくっ!”


桃があわててフォローをすると、三郎は思いっきり反応をして顔を上げた。


「ホント?いつもの私、好き?」

「はいです!おひざに乗っけてくださるとすごくあったかいですから」

「うぅっ…!私、今すぐ着替えてくるっ!!」


そう言うと、三郎は目にも止まらぬ速さで部屋に戻って戸を閉めてしまった。


「三郎が動いた…」

「桃ちゃんパワー、恐るべし…」

「あ!みんな集まってなにしてんの?」


竹谷と雷蔵が感心しているところにやってきたのは、兵助と勘右衛門。


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