忍たま 短編

□冬の陽だまり
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「先輩、また図書室で居眠りしに来たんでしょう」
図書室の外で久作が何やらもめていたので、耳を澄ましてみればそんな言葉が聞こえてきた。
どうやら今日もあいつが来たらしい。
「そうだけど…どうしても寒くって」
「会話が繋がってません」
予感的中。聞こえてきたのは案の定あいつの声。
なんて会話をしてるんだか。あれじゃどっちが先輩なのか分かりゃしない。
図書室内は私語厳禁だが、図書室の外なら良いというわけでもない。入り口で騒ぎ立てられては利用者が来た際に読書の邪魔になってしまう。仲裁するため重い腰を上げ、仕方なく受付を離れた。
「今日、長次いないのかな」
「居ませんっ」
まさしく門前払い。端から見たら少し滑稽なので笑いたくもなったが、久作があまりに無下に追い返そうとしているものだから少々不憫にも思えた。まあ、不憫と思う時点で私はあいつに甘いのだろう。
「久作…」
図書委員として熱心に業務を貫徹している後輩の背へ歩み寄り、声を掛ける。番犬の如くそれまで前方を見据えていた彼は、不意に私に名を呼ばれて慌てて振り向いた。
「あああ出てきちゃ駄目ですよ中在家先輩」
しどろもどろになりながら私を室内へ押し込めようとする。
「雪下先輩にバレちゃったじゃないですか」
久作越しに視線をやれば、こちらを見て拗ねたように口を尖らせているあいつが居た。
「久作くんのウソつきー」
「だって、雪下先輩は中在家先輩に会うために図書室へ来たんでしょ? 居るって言ったら帰らないじゃないですか」
「そうだけど…。久作くん、私のこと嫌いなの? 悲しいなぁ」
「べ、べつに嫌いなわけじゃなくて…図書室へ来る目的がですね…」
「じゃあ、本を借りるからさ。駄目かな?」
こうきたもんだ。本を借りればそれでいいというわけでもないが、本を借りたいという奴を門前払いするわけにもいかない。こいつときたらこういうことにだけは知恵が働く。
判断に困ったのか、久作が助けを求めるようにちらりと私を見上げてくる。はて、どうしたものか。久作と桃を交互に見やりながら思案したけれど、桃があまりにも視線で訴えてくるものだからなんだか考えるのも面倒臭くなってきた。私ときたら近頃同室者に似て来たかもしれない。
好きにすればいい、そう思って再び受付へと戻ることにした。
「あっ、やったぁ。委員長はいいみたいだね」
「中在家先輩ってば、雪下先輩に甘いんだから…」
呆れたような久作の呟きに自分でも全くその通りだと思ってしまった。
本当、この場に三人もいて誰が先輩なんだか分かりゃしないな。


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