忍たま 短編

□月の夜
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空にはまん丸の黄色い月。

今日はいつもの夜より暖かい。


「きれいだねぇ」

「ですねぇ」


喜三太と桃は長屋の縁側に座って、その大きな柔らかい色の月を見上げていた。


「今日は十五夜だって、庄ちゃんが言ってたよ」

「十五夜ですか?じゃあ、お団子とか飾らないといけないですね」

「でも、ぼく何も用意してない」

「わたしもです…」

「困ったねぇ…」


“うーん”と頭を抱え込む2人。

すると突然、喜三太が“あっ!”と小さく叫んで、縁側から“ひょいっ”と飛び降りた。


「喜三太、どうしたです?」

「ちょっと待ってて〜!」


そう言いながら、喜三太は縁側から少し離れていった。

桃が不思議そうな顔で首をかしげていると、喜三太は何かを持って戻ってきた。


「ほらっ!これを飾ればいいよ!」


嬉しそうな顔で突き出したのは、束にされた『ネコジャラシ』。

桃は目を“ぱちぱち”とさせていたが、すぐに“ぱぁっ”と顔を輝かせた。


「すすきの代わりですね!?」

「うん!似てるから大丈夫だよね?」

「喜三太、頭良いですぅ!」

「えへへー!」


2人は“キャッキャッ”と笑いながら、桃が持ってきた竹の筒に、そのネコジャラシを差した。


「…うんっ!お月見だね!」

「ですねっ!」


お互いの顔を見て、2人は“にこっ”と満足そうに笑った。











「……さて」






物陰からこっそり見ていた土井先生は、困った顔でほほをかいた。


「月見をするのは、秋の十五夜だけということを、どのタイミングで言えばいいのだろうか…?」


そんな土井先生のことなど露知らず、喜三太と桃はまた月を見上げていた。


「きれいですねぇ」

「そだねぇ」


そより、そよりと吹く風が、2人の髪とネコジャラシを優しくゆらした。



*END*




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