赤を彩る者

□賽
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戦装束に着替え、刀を穿く。
髪を束ね、文机に置いてある書を手に取った。



「…頼政も、令旨…受け取ったのか…」



吐き捨てるように、けれど細く。
呟いて、ぐしゃりと書簡を握り潰した。












































戦支度を終えると、知盛は郎党らを左兵衛府に集めた。
景清と忠光も、郎党の列に並ぶ。



「大変なことになったな」



ふいに掛けられる声に、景清は顔を上げる。
そこにいたのは、長兄である忠綱と、従兄の景高。



「綱兄上、高兄上…」

「景清は今日が初陣になるな」



景高がぽつりと呟く。
景清は、伊藤氏――伊勢に住み平家に仕える藤原氏は、そう呼ばれていた――の中で、最も年下だ。
忠光は、前年の清盛の挙兵の際に出陣している。
大きな戦自体はなかったものの、忠綱や景高は検非違使であるため、市中で悪漢を斬り伏せた事も多々有る。



「無理して前に出る必要はないんだからな」



言いながら腕を組む忠綱に、景清はこくんと頷いた。
そうしているうちに、衛府の奥から知盛が現れる。
真中の席に座ると、郎党らは同時に頭を垂れた。



「…頼政が謀反を起こしたのは、知っているな」



知盛の声に、一同は頷く。
軽く周囲を見回すと、知盛は膝を進め、低い声で言う。



「今、伊藤忠清が『橋』を抑えてる……そこが、戦場だ」



言い終えると唇を噛み、自分に、周囲に言い聞かせるように呟いた。



「頼政とは……俺が、やる」





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