色々話

□雨脚の音
1ページ/2ページ



「―――雨―――」

蝋燭屋の若隠居、百介は己の住処である離れで書物に没頭していた。
この若隠居、跡取り息子であるにも係わらず、両親が亡くなるとすぐに身代を番頭に譲り、いつか自分で百物語を書いてみたいと意気込んでいる変り種で、今日とて古い書物に没頭していた。

今朝、以前自分が各地で聞いて回った奇談に、気になる事があると思ったとたんからずっとこの有様で
三食は家のものが届けてくれたので、一様は摂ったものの
この雨がいつ方降り始めたかと聞かれれば―――はて、といった具合の没頭ぶりである

夕餉をとった際一様は灯りをつけていたものの、雨のせいもあるのだろう、辺りはもう暗闇で包まれている
百介はふと立ち上がると、裏の窓を開けた

「昼頃は晴れてたと思うのに・・・」

何時から降りだしたのかは定かではないが、雨脚はあまり強いものではないようで
さぁ―――という音が暗闇のなかに響いていた
なんとはなしに窓辺にぶら下がると、目を閉じてみる
この静かな雨音はとても耳に心地いい
旅先などで降られると困るものだが、家の中にいるとまた話は変わる
しばらくそのまま雨音に聞き入っていると、どこかで水のはぜる足音がした

「何してるんですかぃ、こんな夜更けに」
「!!」

急に真横から聞こえた声に驚いて振り向くと、そこに小股潜りがひっそりと立っていた

「又市さん!いつからそこに」
「先ほどから」

見ればずぶ濡れの状態だった

「取りあえず上がっていきませんか、そのままでは風邪をひきますよ」
「滅相もない、こんな濡れ鼠を上げると畳が湿りやす。奴はこれを先生にお渡ししようと思っただけでして」

そうゆうと手についた水を払い、偈箱の中を探り始めた

「ああ、これです」

差し出したのは、半紙のようなものに包まれた小さなものだった

「なんです、これは」
「天狗の爪らしいですぜ」
「天狗の!」

急いで包みを開けると、そこに黒く変色した、人のものにしては少し大きめの爪のようなものが出てきた。

「こ、これは―――本物―――ですか?」
「どうですかねェ、そこいらの奴らは皆信じてるようでしたが」

なんともいいがたい顔をして又市が笑った

「どうしたんですか、これ」
「今回の仕事で手にはいりやしてね、先生が好きだろうと思って持ってきたんでさァ」
「仕事ですか」
「へぇ、ちょっとした仕事だったんですが―――ちぃとばかし長引きましてね、それで今がその帰りで―――ところで先生はこんな夜更けになにしてんですかぃ」
「その―――ちょっと雨の音を聞いてたんです―――」
「雨音―――ですかい」

まぁ―――といいながら少し照れたように笑った

「やはり上がっていきませんか、そのお仕事の話もよろしかったら伺いたいです」

笑いかけると、又市は困ったように笑った

「熱いお茶もお淹れしますよ」

そう言うと又市は笑って―――お邪魔致しやす―――と言った







―――――――――――

他サイト様で見た「濡れ鼠又市」にやられてしまいました

も 〜〜〜〜〜なんでしょねぇ〜〜〜
巷説萌えるんですよ〜〜〜〜!!!
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ