色々話

□櫻の怪
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ある日の晩、小股潜りの元に一つの依頼が来た。

依頼主はさるご令嬢を助けてほしいとゆう依頼で、その村では最近嫁入り前になると何故かその花嫁になる娘が消えてしまうとゆう事件が頻繁している。

始めの内は拐かしであろうと調べていたそうなのだが、手がかりも一向に見当たらず、さらに娘達もいなくなる一方で、最近では何かの祟りではないかともっぱら噂になっているらしい。


「祟りですか」
「それで今度嫁入りする娘を助けて欲しいとの依頼でした」

そして依頼を受けた又市は蝋燭屋の若隠居、百介を連れて現在山中にいたる。

この若隠居、百介は蝋燭屋の跡取り息子にもかかわらず、親が亡くなればその身代をとっとと番頭に譲り、いつか自分で百物語を書きたいと離れの部屋で書物に没頭したり、各地の怪奇談を聞きまわる旅に出たりと、聞く人が聞けば放蕩息子、うらやましい身分な人物である。

妙な出会いもあってか、なにかと又市に協力する事もあり、今回もその依頼に協力する事になった百介は又市と二人、江戸をたったのであった。

「今回はおぎんさん達は一緒ではないんですか?」
おぎんとゆうのもまた又市の仲間の一人で、山猫廻しのおぎんとゆう二つ名を持つ美貌の人形使いである。
「おぎん達は先に行ってもらって、ちょっとした仕掛けをしてもらってるんでさぁ。なぁに今回はそんなに難しい話でもねぇんで。」
「とゆうと?」
「祟りの大元は掴んでるんでさァ。大店の息子で、こいつがどうもいけねぇ癖をもってんです。
それが、人のモンが欲しくなるってぇもんでね。なんとも想ってもいねぇ女が、いざ嫁になるってぇとむくむくとその癖が起きちまうんだそうです。」
「人のもの・・・」
「で、その村にでけぇ櫻の木があるんでね、今回は櫻の木の祟りって事でおぎんにゃ噂流してもらってんでさぁ」
「櫻の木の祟りですか、でもちゃんと祟りの話があったんなら、後から違う噂を流しても無駄なんじゃないですか?」
「その点はでェじょうぶで、まだ祟りって噂が流れる前から依頼を受けてたもんで、おぎんと治平に急ぎで行ってもらって噂流してもらったんでさぁ。」
「なるほど・・・で、その噂とゆうのは」
「へぇ、嫁いでくるはずだった娘が前の晩に押し込みに殺されて、それを悲しんだお相手がその木の元で死んじまったってぇ話で。
そのお相手が花嫁連れてっちまうってぇ噂です。」
「そ、その話は本当なんですか?」
とたんに百介の目が輝いた。
怪談奇談を集めている百介にとってはやはり見過ごせない話だったのだろう
「嘘で御座いやす」
目を輝かせる百介を見ると、薄く笑って又市は応えた。
「う、嘘・・・なんですか・・・」
目に見えて頭を垂れるその落胆振りに、今度は声を上げて笑ってしまった。
「先生は本当に奇談がお好きですねぇ」
喉の奥でくつくつと笑うと百介を見た。
百介は顔を少し赤らめながら、いけませんか―――そう言って横を向いてしまった。
「おっと、気を悪くしないでくだせぇ、先生の反応がかわいらしかったんでつい」
「・・・馬鹿にされているような気がします」
否、馬鹿にされているとゆうよりも子供扱いされている。
かわいいなんて言葉は女子供が喜ぶ言葉であって、一般の男児が喜ぶような言葉ではない。
最近の又市は特に己にそういった態度をとるような気がする。
己よりは確かに年上なのだろうけど、そこまで子供扱いされるような事ないと思うのに―――
そんな事をぶつぶつと考えていると、耳に軟らかい感触と、ちゅっという音が入り込んできた。
「!!」
耳を押さえて振り向くと、にやけた顔の又市がいた。
「お、こっち向きやしたね」
「!ま、又市さん!!」
顔を赤くしながら又市に怒鳴るが、どこ吹く風、にやにや笑いながらそのまま歩いていく。
その背を見ながら、百介の足は止まってしまった。

丁度丘の頂上に近かったので、又市の姿はもう見えない。
百介は、はぁ―――とため息を吐いた
出会った頃から又市は己に甘かったように思う。それが最近では特に甘やかされている気がする。
それはべったりと甘い訳ではない、付かず、離れず、それに時によって先ほどのように軽く触れて来たりもする。
あんな風に触れられるのは本当に困る。
嫌なわけではない、否、嫌でないから困るのだ。

出会った時、まだ知り合ってもいない自分をも利用しながら、又市達は見事仕掛けを成功させた。
特に又市の話術には本当に舌を巻いた。
その策略を聞き、驚き、憧れ、興味を持った。
思えば最初から惹かれていたのだろう、
それから何度が会ううちに又市の人柄に触れ、心に触れ、どんどん惹かれていった。
これが恋ではないのかと気づいたのは、ついこの間だった。
とゆうのも、己は己でゆうほどの朴念仁で、生まれてこの方恋など一度もしたことがなかったのである。
―――又市さんは己の事をどう思っているのだろう―――
と考えても己では答えもだせず、かと言って他人に相談するのも憚るもので、
結局煮え切らないままうだうだとしている状態なのだ。
はぁ―――ともう一度深いため息を付くと、丘を越えた辺りから又市の声が響いた。
「先生ェ、置いてっちまいますよォ」
「あ、すみません!」

急いで又市に追いつくと、何してたんですかい?―――と聞かれ、いえ・・・まぁ―――とまた何とも煮え切らない返事をした。

「あの、それで、今回は私はいったいどういった事を」
「ああ、なぁに先生はいつもどうり噂を聞いて回ってくだせぇ」
「聞いて回るだけでいいんですか?」
「へぇ。あ、その聞いて回る所々でたまにこう聞いてみてくだせぇ」
「聞く?」
「違う場所で似たような話がある、その話では櫻の木の元でいなくなった女の遺体がみつかった、と」
「それだけですか」
「へぃ。今のところはそれだけで結構。また言う事も出てくるやもしれやせんが、それはまァその時で」
そうゆうと百介の方を見、ふと笑った。
「わ、分かりました」
顔が赤くなるような気がして、急いで又市から目線をそらすと道の先を見た。
まだ山道は続く

「まぁ、次の花嫁が嫁入りするにァまだ時間もありますから、急いでも栓もなし。
しばらく奴(やつがれ)と色気のねぇ二人旅で申し訳ねぇが、気長にめぇりましょう」

りん―――と鈴が鳴った




―――――――――――――――――

嵌ってしまいました。京極ワールド
絶対嵌るからしばらく読むまいと思いながら・・・読んじゃいました
巷説たまらん!!
百さんかわいすぎ!!!
もぉね、これが萌えかとね

続きます

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