□さ く ら
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「旦那ぁ」


甘く自分を呼ぶ声がする。

昨日の情事の跡を匂わせる掠れた声は、まさしく糖分100%。

キングチョコパフェを上回る甘さ。



「ん〜?」

寝起きのぼんやりした頭で声がする方を見遣ると、既に起きていたらしい沖田君は胡座をかいて、格子窓から見える川辺の枝垂れ桜をぼんやりと眺めていた。


「せっかく昨日満開になったのに、雨降っちまいやした。桜、散っちゃいますねぇ」

と少し淋しそうに呟いた。



確かに外はさらさらと音がしそうな春雨が降っていて、草木の匂い立つような空気が立ち込めていた。



「そうだねぇ」


後ろから華奢な身体を包み込み、栗色の頭に顔を寄せる。

そこからは何かにあがらうかのように日向の匂いがした。



「ねぇ、沖田君」
「なんですかぃ?」
「桜ってさぁ、人の血を吸ってるからあんなに美しいんだってよ」
「…………へぇ」
「…………沖田君は何を吸って生きてるの?」
「……………………」
「……………沖田君?」



少し、腕の中にいるこの子が怖くなる。

確かに感じているはずの温かさも嘘のように思われてくる。


「……………ねぇ」


思わず出ちまった声は、情けないことに焦りを多分に含んでいて。

そんな自分に舌打ちする。


 
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