小説

□とある昼下がり
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とある昼下がり。

今日は、珍しく寺田屋に、みんなが揃い、これからの事を話し合うはずが。
みんな上の空である。。。

「彼女は、本当に可愛いのぅ」
「え?………」
何を言いだすかと思えば…この人は!
まったく、
鼻の下を“でれ〜ん”と伸ばしてっ!!
これから、日本を変えようという人が。。。
みんなの話し合いの席で、こともあろうに、女子の話なんて。。

「いいかげん、その何ともイカガワシイ目で、彼女を見るのは、やめろ龍馬!!」

武市さんも見るに見兼ねて、龍馬さんを叱りつける。
「なんじゃと!?イカガワシイ目でなどみちょらん!」

姉さんが来てからというもの。
毎日、龍馬さんと武市さんの喧嘩が絶えない。


「……ったく。どうにかならんのか」
以蔵くんは、呆れ顔で部屋の隅から二人を見ていた。
「無理っすよ。二人とも姉さんに夢中っす!」

「…はぁ〜」
以蔵くんは、深いため息をつく。
「そういう以蔵くんは、姉さんに夢中じゃないんすか?」
「なっなんだっ?いきなりっ」

ほら。
この慌てようだ!
以蔵くんだって、顔には出さないけど、姉さんの事が、凄く気になってるくせに。

「なっ…しっ慎太。そんな顔で見るな。俺は、先生の命にただ従うだけだ。あいつがどうのこうの関係ない」

「はいはい…」

わかりました。
以蔵くんは、わかりやすいっす。

はぁ〜。

なんだかイライラしてきた。
俺も爆発しそう……頭を冷やさないと。。。

まだ喧嘩を続けている二人と、慌てている以蔵くんを横目に、俺は部屋をでた。

「まったく… 。最近、姉さん姉さんて、みんなして姉さんに夢中で……」


今までだったら、龍馬さんは、俺に何でも用事を頼んでくれたのに、最近、姉さんにばっかり頼んでるし、武市さんは、武市さんで、俺の存在がまるで頭に入っていないし、以蔵くんは、今まで何かとからかってきて、鬱陶しいな。。。と思ってたけど…。
それも、無いと寂しくなる。。。

「はぁ〜…」
俺は、どうしてこんな気分なのか。
姉さんに嫉妬なんて、らしくないっすね。。。

「あっ慎ちゃん!良かったぁ」
「あっ、ねっ姉さん」

なんてタイミングだ。
今、一番会いたくなかった人なのに。。。

「姉さん。どうしたんすか?」

それでも、姉さんのせいではない事くらいわかっているし、俺だって姉さんは不思議な魅力がある事もわかってる。だから、変なイライラを姉さんにぶつけちゃダメだ。

「うん。お団子もらったから、みんなで食べようと思ったんだけど、みんな居なくて」
手にあった包みを差し出して、姉さんは少し困った顔をする。
「あぁ!……みんなっすか」

うーん。。。
どう説明しようか。。。

「取り込み中かな?」
「まぁ、そんなところっす」

そう言うのが、この場合、一番適切なはず。。。


「そっか……じゃあ、慎ちゃんと二人で食べちゃおうか!」
「え?」
「あ、慎ちゃんも、忙しい?」

姉さんの提案があまりに想像外でびっくりした。

「俺は大丈夫っすが。いいんすか?」
「いいも何も。一人で食べるのは寂しいし、慎ちゃんが付き合ってくれると、嬉しいなぁ♪」

「あっ//」
うわぁ。
そんな笑顔で言われたら、今まで、姉さんに嫉妬してた、自分が恥ずかしいっす。

「お天気もいいし、縁側で食べよ♪」
「そ、そうっすね」
「行こ!」

そうニッコリ笑って、姉さんは、俺を先に行かせ、後からついてくる。

以前、手を引かれそうになった時、女子は男の後ろについてくるモノだ。
そういって怒ってしまった事を、姉さんは、ちゃんと覚えてくれていた。


なんだか、自分のモヤモヤが全部吹き飛んでしまった。
姉さんが、吹き飛ばしてしまった。


みんなが、姉さんに惹かれるのは本当によくわかる。。。
それなのに、構ってもらえなくて、寂しくて姉さんに嫉妬するなんて。
男として、凄く情けない。

「ごめんなさいっす」
「え?」

思わず、謝罪の言葉を、姉さんに投げ掛けてしまった。
姉さんは、わけもわからず不思議そうな顔で、俺を見つめる。

「いや……その……」
「あぁ!お団子かぁ!!二人で食べちゃうんだもんね。みんなには、“ごめん”だよね」
「え?」
「大丈夫。二人だけの秘密だよ」

人差し指を唇に当てて、姉さんは、笑う。
その姿に、俺は見惚れて、心がドキっと跳ね上がる。

「姉さんは、本当に罪作りっす。。。」
「えぇ?罪??」

そう、思い出せば。
構って欲しかった俺を、一番構ってくれてるのは、姉さんでした。

俺の心を、あっと言う間に優しく包んでくれるのも、姉さん、あなただからできる事でした。

「いえ、ありがとうっすね」
「えぇ?」
姉さんが、ますますワカラナイという顔をしたその時だった。

「おぉ?ふっ二人で何しとるがじゃぁっ」

う、うわっ!
「りょっ龍馬さん!」

「いつの間に、二人になっちゅうがか!?」
龍馬さんは、慌ただしく騒ぎ立てる。

「なかなか侮れないな、中岡は」
その後から武市さん。
顔は笑っているけど、この顔は怒ってる時の顔だ。。。

「なるほど、さっきのは、此処へくるための策略だったというわけか!」
先程の仕返しだ!
と言わんばかりの以蔵くん。


姉さんは、更に更にわけもわからず、ポカンとした顔でみんなを見回して、最後に問いかけるように、俺の顔を見た。

「…秘密っすよ!姉さん」

ふん。
みんな、俺を粗末に扱った罰だ!
しばらくは、姉さんは俺が独り占めだ!

「ひっ秘密じゃとぉ?!一体、二人で何をしちょったがじゃっ」

龍馬さんは、相変わらず、騒ぎ立てて、暴れている(笑)

「いいのかな?」
心配そうに姉さんは聞く。
「大丈夫っすよ!龍馬さんが騒がしいのは、いつもの事っす。」
そう、こっそり耳打ちする。

「なんじゃ、耳にコショコショっとしたぜよ!コショコショっと!!」


やれやれ。。。


「姉さん、お茶をお願いしてもいいっすか?」
「え?あ…!うん」

「……すみませんが、5人分」

「あ…!うん♪」
姉さんは、俺の言った意味を悟って、嬉しそうにパタパタ駆けていった。

「さてと…」

やっぱり、ダメだ。。。
姉さんを独り占めなんて。
俺は、欲張りだから。
みんなが大好きで、みんなを独り占めしたいんだ!

この賑やかな人達が大好きなんだ!!

「さあ…!
みんなで、縁側でお団子食べるっすよ!早くしないと、美味しいお団子も姉さんが煎れてくれたお茶も無くなるっすよ!」

「!!」


とある昼下がり。
今日も寺田屋は、とっても賑やかです♪


*end*


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