ポケスペ鬼倒回想録

□第二十七話 裏の裏のそのまた裏
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鬼羅山の老木の枝の上で、空を眺めているサ
ファイアをみつけたルビーは、ふと悲しくな
った。

いつも、ルビーは一人でいる彼女を見ると驚
かしたくなる。

今もそうだ。

しかし、気配を感じる能力にたけている彼女
は驚かす前にルビーの存在に気がついてしま
う。

なのにワザと足音を立てて近付いても、ここ
にいる自分の気付いてくれない。

まるで、自分の存在が消えてしまったかのよ
うな気分だ。

ほら、いつだって同じで分かりあっている?

とんだ勘違いだったようだね。

「ルビー………」

呼ばれてルビーはサファイアの横に座った。

「僕の存在には気づいていた?」

「一応………」

「で、気持ちは落ち着いた?」

サファイアはもどかしそうな表情でうつむい
た。

「考えれば考えるほど分からなくなるった
い。うちば皆のこと好きやけん、迷惑ばかけ
られんち。帥虎の思いを優先するか、皆の思
いを優先するか、迷っていたところったい」

サファイアは今、自分の心と戦っている。

ルビーにはよくわかった。

「君と最初に会った時、覚えてるかな」

サファイアは無言でうなづいた。

「山火事で君は洞窟の中で震えていたよね。
人間なのに人間として扱ってくれない、自分
と同じ姿をした人が自分を殺しに来る、そう
言って泣いていた」

「今になると………懐かしいったい」

苦笑するサファイアをみてルビーはほほ笑ん
だ。

「君は僕とあって変わったと思うよ。もし、
あの時助けなかったら君は孤独の中で死んで
いただろう。それだけは絶対に阻止したかっ
た」

「でもね、ルビー。異血組に入ってからずっ
と思ってたったい。世界は内には広すぎた
と。ルビーと初めて人里に下りた時も、皆が
敵に見えて苦しい虚しさに襲われたったい。
人間はやっぱり怖い、人間は信じられん。人
に話しかけたり、もちろんルビーも例外じゃ
なか、レッドさん達もったい。境遇を理解し
てくれない、理解してくれたとしても憐れまれて笑われて、虐められて、思いが届かなそ
うで怖かった、一人孤独になっていくみたい
で怖かったったい」

藍色の瞳から涙がこぼれおちた。

正直、ルビーは素直に本音を打ち明けられて
困っていた。

下手に発言したら、これこそ彼女の心の傷に
塩を塗る行為となってしまう。

一言一言きちんと選んで言わなければならな
い。

自分の発する言葉一つ一つが彼女を傷付けて
いくんじゃないかって、やりきれない気持ちに襲われていた。

「そう……だったんだ」

「自分の境遇を理解してくれる人を諦められ
ず探し回ってたったい。でも……」

サファイアは苦笑した。

「最後まで一人ぼっちだったとね」

ルビーは笑うサファイアをみて目を大きく見
開いて俯いた。

彼女に自分の気持ちを伝えたら、どういう反
応でみられるのだろう。

もしかしたら、下げずまれるのかもしれな
い。

伝わらないかもしれない。

けれど、素直に彼女が本音を明かしてくれた
以上、自分も少し素直になってみようかと思
えて来た。

思い切ってルビーは口を開いた。

「僕が……僕だけの存在を作れるみたいに、
君は君だけの自分を作れる。境遇を理解して
くれない人がいたとしても、絶対に境遇を理
解してくれる人も存在するはずだよ。だか
ら、感情を思い切って表情に出して、泣い
て、笑って、憎んだってこの世界と自分を愛
していこう。その気持ち一つで、変わってく
るものもあるんだ。たとえ、世界に自分一人
しか存在しなくなくても心はずっと君の味方
だと思う。きっと思いを理解して道を切り開
いてくれる、僕はそう信じている」

ルビーの言葉にサファイアは唇を強く噛ん
だ。

「ルビーがうらやましいったい。なんでそん
なに前向きに考えられると?なんで……なん
でそんなに根拠のない事を言えるとね」

「僕の心はそう告げているからさ。僕の一番
の信用者は心だから」

「こ、ころ………」

「心は自分に素直になってくれる、素直の塊
だと言ってもいい。その人によって素直さは
変わるけど、僕はとびっきり素直だ」

サファイアは水たまりを覗き込んだ。

「むかつくったい。諦めてる自分も、おかし
な世界も」

「じゃあ変えてみよう!」

ルビーはサファイアの肩をつかんで引き寄せ
た。

「え………」

「君が住みやすい世界に僕が変えて見せる!
君の本物の笑顔の為に、世界を君と帥虎の住
みやすい理想の場所ににして見せるよ!戦争
が嫌いならなくせばいい!笑顔を増やしたけ
れば平等で裕福な暮らしを皆に授ければい
い!僕と君の力で運命と未来を変えて見せよ
う!絶対出来るさ!君と僕なら、絶対に!」

「でも………」

「君は一人で抱え込みすぎた。人間はひとり
で生きられるわけがないだろう。自分の本音
をしまいこんで無理をしてまで人間に溶け込
めとは言わない。けれど、同じ人間なら受け
入れてくれる人もいる。僕みたいにね」

「うちは人間じゃなか、化け物ったい。山に
すみつく、化け物ったい」

「っ………」

確か、サファイアは村の人に化け物呼ばわり
をされていた。

帥虎の跡継ぎ、人間と言う名の皮をかぶった
化け物。

山から助け出した時、ルビーはサファイアを
おぶっていた。

村人とはたくさんすれ違った。

だから、こう言われた。

異国の化け物がこの国の化け物を背負ってい
る、と。

「君が化け物なら皆化け物だね(笑)」

「わ、笑い事じゃなか!ルビー達にまでそん
な汚名を……」

「汚名?どこが」

「え………」

ルビーはサファイアの頭に手を置いてぐしゃ
ぐしゃとなでた。

「君と同じ呼び名だったら僕にとっては名声
なみに嬉しいよ」

サファイアの顔が髪よりも涙でぐしゃぐしゃ
になった。

そしてルビーの服にすがりついてきた。

抵抗はしない。

優しく受けとめてあげる。

「………本当は知ってたったい。敵の狙いが
うちだってことも。だから、お人好しなレッ
ドさんのさっきの発言は、うちを逃がすため
の口実だってことも、うすうすは気づいてい
たったい」

「君は優しい女の子だよ」

「ありがとう、ルビー」

レッドは信じていた。

サファイアが諦めないで、踏ん張って耐えて
この世界で生きていけるってことを。

ルビーはレッドから聞いた本音を深くかみし
めながら泣きじゃくるサファイアを抱きしめ
た。

























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