上琴小説

□最低の返事
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〈2〉

…風通しの悪い場所なはずなのだが、心地よい風が吹いた。

上「…そうか」

上条は“驚かなかった”。
上「…ありがとな」
美「え?」
上「俺も何であんなこと言ったかわかんねえけど…」
上条は美琴にゆっくり近づく。


上「それって、俺も御坂が好きってことだろ」


…不思議と鼓動が止んだ。
美「今…何て―――」
上「って…何度も言わせんなよ」

上条はもう一度丁寧に告げる。


上「俺は、お前が好きだ。だから守りたい。以上」


そう言い切った。
美琴の中で勘違いから確信へと変わる瞬間だった。
美「(嘘じゃ…ないの?)」
2人は見つめ合った。
美「(私が…特別?)」
おそらく、上条にそれを訊いたら彼は「特別だ」と答えるだろう。

しかし、上条には“特別が多すぎる”。

彼が助けようと思った人間は誰でも特別なのだから。
けれど。

“特別の中から特別を選んだっていいはずだ”。

上「御坂…」
美「…」

2人はゆっくりと顔を近づける。


そして。


唇を重ねた。


それにどんなに深い意味があるかはわからない。
感謝なのか、恋心なのか、信頼なのか、愛情なのか。
その全部の可能性もある。
いや、まだまだあるのかもしれない。

かつて死を迫られるほど追いつめられていた少女。
どうしても助けたいと思った少年。

その2人の間にどれほどの感情が刻まれたのか、わかる人間はいない。

上条は顔を離し、美琴は閉じていた目を開ける。

上「…ちゃんともう一回言おうと思う」
美「え?」



上「御坂と、御坂の周りの世界を守る」



…最低の返事だ。
海原との約束。
それ以上に、上条が自分自身とした約束だ。

美琴は何も喋ることができなかった。
今、目に浮かんでいる涙の正体もわからない。
美「…最低ね」
結局はそれくらいしか言えなかった。
上「ああ、最低かもな」
上条は美琴の頭の上に右手を置く。

上「こんなやつが、この期に及んでこんなセリフ言うんだから。そりゃあいつにだって最低って言われちまうよな」

美琴は手で涙を拭いた。

何が最低かと問われれば、美琴と真っ正面から向き合わないであんなセリフを言ってしまったことだろう。


上「けど、嘘じゃねえ。それくらいは…最低じゃないって認めてくれよ。もうお前に、苦しい思いさせたりしねえよ」


そして、無意識に美琴は上条に抱きついた。
堰を切ったように感情が溢れだす。
美琴はこの日、自分の弱さを知った。
美「ありがとう…」
上「ああ」



そして、これからも。



最低の返事は御坂美琴を支え続ける。




end
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